わたしの彼は鬼だった!! 平凡な24歳の会社員、睦月の恋人は、魔力を持つ鬼族の若者だった。禁じられた二人の恋の行方は?
藤野さり著 『一の月と青き鬼』
第1回
「結婚してほしいの」
わたしからの逆プロポーズに、青磁《せいじ》君は固まってしまった。
さっきまで流れていた和やかなムードは瞬時に消え去り、気まずい沈黙が落ちた。
わたしは、恋の終わりを覚悟した。
彼、北島青磁《きたじませいじ》は、わたしの勤め先の同僚だ。
一年前、彼から置き傘を借りたのがきっかけで親しくなり、デートをするようになった。今では互いの部屋の合鍵を交換して、毎週末を一緒に過ごしている。
ちょっと理屈っぽい話し方や、甘やかし過ぎと思うほど優しいところ。時々頑固で強引なところも全部含めて、彼が好きだった。
照れてしまうような褒め言葉や、デートのたびにくれる小さなプレゼント、濃厚なスキンシップ。それらを、彼に愛されている証拠だと信じていた。同じ未来を望んでくれていると、勝手に思い込んでしまった。
わたしって……大バカ。
「……ごめんなさい」
頭をうな垂れたわたしは、無意識のうちに謝っていた。
「本当に……ごめんなさい」
膝の上に乗せた両手を、ぎゅっと握りしめた。
他に恋愛経験がないので、こういう場合どう対処すべきか全然わからなかった。
笑ってごまかしてもいいの? それとも、合鍵を返してきちんと別れるべき? でも、彼と離れたくなんてない。
わたしたちのいるレストランはかなり照明を落としているし、隣のテーブルとの間隔が開いているので、こちらの会話が全部聞こえることはない。人気店のここを予約したのは、付き合いだして一周年を祝いたかったのと、同時に婚約記念日にもしたかったから……。恋愛初心者のベタな発想だ。
「――睦月《むつき》」
青磁君が気遣うように声を掛けてきた。
わたしは慌てて顔を上げた。
「あの、わたしは平気だから。まだ青磁君は二十五歳で、結婚を考えるには早すぎて、付き合いもたった一年間だけだし。だから、断られることも覚悟していて」
「違うんだ」
「本当にいいのよ、悪いと思わなくても――」
「睦月! 黙って俺の話を聞くんだ」
珍しく声を荒げた彼に、わたしは驚いて口をつぐんだ。
青磁君は言い難そうに唇を噛むと、少し下を見た。
「……実は、ずっと隠していたが、俺には秘密があるんだ。いつかは打ち明けなければと思っていたが、なかなか言い出せなくて」
秘密?
「――俺は『異種』なんだ」
異種……。
わたしはポカンと口を開けた。
「……異種? ええと、それは、あのヴァンパイアやら狼男、妖精なんかの?」
「そうだ」
青磁君がうなずいた。
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