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ポジティブな私 ポジ人

映画と父と

ブログを書き出してから、過去の色々な事を思い出す度に、新しい発見がある。

その一つに、私の映画好きは父譲りだったのだと言う事に気がついた。

幼い記憶をたどると、いつも父と映画館にいた。

毎夏の東映まんがまつりやディズニーの映画も連れて行ってもらったけど、一番多かったのは、父の好きな映画の付き合いだった。

勝新太郎の兵隊やくざシリーズは、随分見た覚えがある。
子供向けの内容ではないが、父と一緒にスクリーンを眺めていた。

時々お色気シーンなんかがあると、父は「目をつぶっていなさい」等と指示したり、そのシーンが終わるまで、私の目の前に父の手をかざし、スクリーンをさえぎって見せない様にしていた。
お色気シーンと言ったって、一番激しいものでキス程度。
現在の性描写に比べたら、可愛らしいものだったし、子供なので大人が思うほどの事も理解出来ないのだから、父の手の隙間から、何を思うともなく見ていた。

父は、いわゆる軍国少年だった。国の教育に真っ直ぐに染まっていた。

予科練に憧れ、戦争へ行ってお国の為に命を捧げることも厭わないほどの意気込みだったようだ

だが、父が出征する事はなかった。
日本が負けて、終戦を迎えたからだ。日本が負けた悔しさと、戦争で戦えなかった悔しさが残った様だ。

お酒が好きだった父は、酔っ払うと良く軍歌を歌っていた。
♪赤い血潮の予科練の…
何度も同じ歌を歌うので、私もすっかり歌詞を覚えてしまった。

兵隊やくざシリーズを見ながら、どんな思いを感じていたのだろうかと思う。

兵隊さんは国から備品を支給され、それらを自分で管理しなければならないが、うっかり無くしてしまったりすると、連帯責任として、その部隊全員が殴られる事態となる。
そんなストーリが描かれていた。
子供心に理不尽だと思った。

神風特攻隊の映画なども見た。
ストーリ自体はすっかり忘れたものの、ラスト、戦友に笑顔で別れを告げ、アメリカの軍艦にゼロ戦で向かって行くシーンは忘れがたく、強烈に目に焼き付いている。

数年前に百田尚樹著作の「永遠の0」を読み、ストーリーよりもゼロ戦にまつわる多くの事実を知り、興味深かった

敗戦色が濃くなった戦争末期、国はなんと愚かしい事ばかりやってきたことか。
神風特攻隊については、息子を持つ母親として、その時代にいなかったことをありがたく、心より安堵する。それと同時に心が痛む。
大切な命がこんな形で失われていったとは。
大変痛ましい事実だ。

その他、小林旭の「ギターを持った渡り鳥」の渡り鳥シリーズや高橋英樹の「男の紋章」シリーズも良く見た。

私は男の紋章シリーズが好きだった。
高橋英樹がハンサムだったし、ストーリーも良く理解できた。

特に母親との複雑な関係や別れのシーンでは、思わず感極まって涙し、父を驚かせてしまった。

夏場は「四谷怪談亅等も見る事があり、映画から帰った日の夜は、トイレに行くときは必ず父についてきてもらって、「そこに居てよ、絶対」等とトイレから声掛けする事が常だった。

父と映画を見るのも小学校6年生までだった。

中学生になると、だんだん父との関係も微妙なものになり、距離を置くようになった。

私は黒澤明監督の映画が好きで、過去の作品をテレビ等でよく見ていた。

私が20代の頃、黒澤明監督の「影武者」の製作発表があった。
主演は昔「兵隊やくざ亅でよく見た勝新太郎だった。私は大いに期待した。

しかし、残念ながら撮影が始まって間もなく、監督と勝新が衝突し、降板する事になってしまった。
代わりに仲代達矢が主役を演じる事になった。
仲代達矢には申し訳ないが、私はがっかりした。

なんと言っても、最初のキャスティングのイメージがドンピシャ過ぎて、頭の中のイメージが変更出来ないのだ。

私は勝新の「影武者亅が見たかった。

当時、私と父の関係は、私が付き合っている人の事で少々もめた為、気まずい日々を送っていた。

何とかその状況を緩和したくて、出来るだけ何気ない風を装いながら、父に「影武者」を見に行かないかと声をかけた。

珍しく父は私の誘いにすんなりとのってくれた。

日曜日、父と連れ立って街へ出た。
久し振りの父と二人の外出に、緊張した。
ぎこちない空気が流れていた。

映画館で二人並んで観賞した。

子供の時は、父に連れられて見に行った勝新の兵隊やくざ。
ホントは今日は、勝新の「影武者」だったはずなのに…。

見終わったあと父が「やっぱり、勝新が良かったな」と一言。私も、同じ気持ちだった。

それが父と見た最後の映画になった。
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