PFAS汚染除去の特許を取得していたダイキン工業。実験に使った活性炭の製造元をたどっていくと、思わぬつながりが…これは偶然なのか
取り除き切れていない地下水汚染
「空気で答えをだす会社」
そんなキャッチコピーを掲げるダイキン工業の淀川製作所(大阪府摂津市)。
PFOAの使用をやめて10年以上たついまも、工場周辺の地下水から高濃度で検出されている。地下水の汚染を取り除くのは、空気をきれいにするようにはいかないようだ。
同社はこれまで、工場内の井戸から地下水を汲み上げてPFOAを除去しようと、試行錯誤を重ねてきた。そのひとつとして「活性炭による汚染処理方法」の特許も取っていた。
内容に触れる前に、工場周辺の汚染の深刻さをあらためて確認してみよう。
ダイキンと大阪府・摂津市による者連絡会議の議事録には、大阪府が工場のすぐ外にある井戸で測った地下水濃度(1リットル中、2019年度のみ環境省調査)が記されている。
年々下がってきたとはいえ、ここ数年も1000ナノグラム以上を記録し続けている。さらに、工場により近いところにある井戸では30,000ナノグラム(2021年度)や26,000ナノグラム(2023年度)が検出されるなど、汚染は消えていない。
PFOA除去のための特許
こうした深刻な事態に対処しようと、ダイキンの3人の研究者は2009年、ある特許論文を出していた。
<本発明は、効率よくPFOA等の含フッ素界面活性剤を除去することができる処理方法を提供する>
背景について、こう書かれている。
<PFOAに対する環境への負荷の懸念が明らかとなってきており、2003年4月14日EPA(米国環境保護局)がPFOAに対する科学的調査を強化すると発表した>
さらにその3年後、有害性と蓄積性の高さが確認されたことから、ダイキンを含む世界の化学メーカー8社は「2015年までのPFOA全廃」に合意した。
以来、全廃を目指す過程で、使用量とともに排出量を減らす取り組みを進めたものの、工場ではPFOAそのものを製造していたこともあり、汚染水の濃度はきわめて高かった。
そのため、処理方法の開発にあたっては、除去する対象の汚染の濃度として10万ナノグラムから1千万ナノグラムを想定していた。現在の国の指針値に照らすと、じつに2千倍から20万倍にあたる。
その除去のために使われたのが活性炭だった。
<活性炭を使用する方法は経済的な利点が大きいが、従来の技術では処理効率が満足できるものではなかった。本発明の目的は、上記現状に鑑み、極めて効率よくPFOA等の含フッ素界面活性剤を除去することができる処理方法を提供することにある>
実験で試されていた活性炭の製造元から見えてくるのは…
さらに論文を読み進めていくと、除去に使われた活性炭についてのくだりで、ある会社の名前に目が止まった。
<日本エンバイロケミカルズ(株)製、商品名白鷺DO-2>
論文によると、実験で試された9種類の活性炭のうち6種類が日本エンバイロケミカルズ製のものだという。ちなみに、残りは三井化学カルゴンと太平化学産業である。
じつは、これまでの取材で、日本エンバイロケミカルズの名前を口にした人物に会ったことがある。岡山・吉備中央町で使用済み活性炭を野積みにしていたためにPFOA汚染を引き起こした満栄工業の関係者だ。
「満栄工業の創業者はもともとマツヤニを取る仕事をしていたそうです。そのための炉をもっていたので、武田薬品工業から求められて活性炭製造に関わるようになった、と聞いています。その後、使用済み活性炭の再生を手がけるようになりますが、日本エンバイロケミカルズ、そして大阪ガスケミカルと名前が変わっても、創業以来、取引を続けているのです」
大阪ガスケミカルのホームページをみると、「武田薬品工業」時代の1937年に「白鷺ブランドの活性炭の製造・販売を開始」と書かれている。
21世紀になり、武田薬品の100パーセント子会社として日本エンバイロケミカルズが誕生し、2年後の2005年には大阪ガスグループに編入され、2015年に大阪ガスケミカルに合併されている。
つまり、ダイキンは工場が出すきわめて高濃度の汚染水からPFOAを除去する方法を開発するにあたり、岡山の満栄工業が古くからつきあいのある日本エンバイロケミカルズ(大阪ガスケミカルの前身)製の活性炭を使っていた、ということになる。
そして、大阪ガスケミカルはいまも、満栄工業、ダイキン双方との取引がある。
原田浩二・京大准教授の調査によって、大阪・摂津のダイキン淀川製作所周辺の地下水と岡山・吉備中央町で満栄工業が野積みしていた使用済み活性炭から、稀少なPFAS類が同じ組成で検出されたことはすでに報じたが、あらためて3社の名前が浮上した形だ。
満栄工業は大阪ガスケミカルの仲介により、ダイキン淀川製作所から使用済み活性炭を引き受けていたのか。
ダイキンはこれまでの取材にこう答えている。
<弊社がPFOAの除去処理に使用した活性炭については、専門の処理業者を通じて焼却処理を依頼しており、弊社が確認する限り、使用済活性炭の再生を委託した事実はありません>
ただし、焼却処理を依頼したという専門の処理業者はどこで、どのように処理されたかは明らかにされていない。
PFASをめぐる構造的な汚染拡大の真相について、「空気で答えをだす会社」による詳しい説明が待たれる。
スローニュースでは、岡山・吉備中央町での汚染場所と、ダイキン工業の工場脇で検出された「4つの特殊なPFAS」について、「偶然とは考えづらい」とする専門家の分析などを詳しく伝えています。
諸永裕司(もろなが・ゆうじ)
1993年に朝日新聞社入社。 週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し、独立。著者に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『ふたつの嘘 沖縄密約1972-2010』(講談社)『消された水汚染』(平凡社)。共編著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯〈カップ〉』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。
(ご意見・情報提供はこちらまで pfas.moro2022@gmail.com)
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