今は青葉だけの川べりの桜の木。
その陰にすっぽり包み込まれるようにして
若い2人が座っていた。
少し早めの昼食だったのだろうか、
近くのスーパーのレジ袋からドーナツみたいな
そんな形をしたパンを取り出した彼女は、
かすかな笑みを浮かべながら彼に渡した。
同じように缶ジュースも。
彼は無言のまま手を差し出して受け取り、
時折彼女の方に目をやりながら
パンをかじり、合い間にジュースを飲んだ。
良く見ると、そう若くはなさそうだ。2人とも30前後と見えた。
2人は2人きりの時をはしゃぐでもなく、
浮かれるふうもなく、年相応といえばそうなのだが、
物静かなたたずまいであった。
2人の前を通り過ぎ、50㍍ほど進んだ時、
がしゃという音がした。
振り向けば、踏みつぶされぺしゃんこになった
缶が彼の足元にあった。
少し先の川べりの小さな砂場に
保護犬・マナの姿を、やはり1年ほど前から
それこそぷっつりと見なくなった。
当時、4歳のメスの柴犬だった。
生まれて間もなく捨てられ、動物愛護管理センターで、
あるいは殺処分されかねない身の上だったのを
新しい飼い主に引き取られ、安穏に暮らしていた。
それでも「いまでも人への警戒心が強く、
こうやって外に出るのも、この砂場遊びの時くらい」
マナを慈しむ新しい飼い主はそう語っていた。
だが、いつしか、この砂場に姿を見せなくなった。
今日も川べりを歩きながら、あの愛らしい
マナの面影を思い浮かべる。
眩しさの中から突然の雨。ぽつりぽつりと背を濡らしていく。
夏日の暑さ。濡れた背は心地良い。構わず歩き続ける。
間もなく梅雨も明けるだろう。
侘しくもあり、眩しくもある季節の移ろいである。
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