今回図書館でお借りしたのは、「虐殺器官/伊藤計劃(いとう けいかく)著」です。
朝日新聞の夕刊記事で紹介されていたのが読もうと思ったきっかけでした。新刊ではなく
2007年に発表されたこの作品のことは、漫画やアニメでは積極的に好み見るSF系を、
これまで読書の対象にあまりしてこなかった私は、まったく存じ上げていませんでした。
9・11 アメリカでの同時多発テロ後の近未来が舞台となっている作品で、ということは、
ちょうど昨今の社会情勢が、記された疑似的未来世界に追いついたとも言えそうです。
作品内ではサラエボが核爆弾で消滅、インドとパキスタンの間で核戦争が勃発しており、
一方現実世界では、核ミサイルの使用をちらつかせ、威嚇しながら軍事行動をするなど
一触即発のきな臭さが漂い、自国でも戦争によるものではないにせよ原発が危機的な
重大事故を引き起こすなどし、作品内で描かれる想像世界がけっして誇大妄想な絵空事
ではないように思えます。
物語に登場する様々なハイテク機器(ほとんどが情報管理や戦場で使用される)も、
どこまでが現実で、どこからが作者が創造したつくりものなのかがわからなくなります。
情報機器やミリタリー関連に疎い私などには、どれも現代の実際の現場、戦闘で使われて
いるものだと混同、思い込まされてしまい、ノンフィクションに近い感覚で読まされる
場面も多々あったのです。
後進諸国で頻発する内戦、民族虐殺、その陰で暗躍するジョン・ポール(←どこかで
聞いたことある名前)という謎の人物、大量死を引き起こす「虐殺の文法」とは…
スリリングで血生臭い描写が随所に見られる一方で、心理学、言語学などの難解な
解説&問答が長々語られる箇所も多くあり、すんなりとは読み解くことができない、
私にとってはハードルの高い、博識てんこ盛りの知略的作品でもありました。
そして、それらふんだんに盛り込まれた知識が、作者の創造物なのか、それとも
実在するものなのか、その境目が曖昧で、これもいよいよもってわからなくなります。
発表から15年、今ではほとんどの技術が現実のものとなって実際の戦場で使われて
いる気もするし、どこまでがフィクションなのかが、ごっちゃになるばかりです。
虐殺器官を紹介した朝日新聞紙面です。作者の伊藤計劃氏は、34歳の若さですでに
お亡くなりになったと記事にあります。
この作品は2017年に劇場版としてアニメ化されているようです(もちろんそれも
今回初めて知りました)。原作では主人公・米軍大尉クラヴィス・シェパードの内省、
心理描写が延々と語られる場面にたくさん紙面を割いており、それをアニメではどう
表現しているのか、演出や脚本が気になるところです。
R指定が掛かっているとのことなのでテレビで放映される可能性は低そうだし、次回の
無料レンタルで、「借りる候補DVD」のひとつにしておきます。