10月23日(水) 雨
雨が降り続き、ほぼ一日中図書館に引きこもり完読したのが
「バリ山行/松永K三蔵著」、芥川賞受賞の話題作だ。
本の帯には「純文山岳小説」とあり、サラリーマン生活の日常と山行の非日常、
人生を重ね合わせながら物語は進行する。『バリ山行』とはバリエーション
ルートでの山歩きのことで、登山地図で表示される一般の登山道には沿わず、
道なき道を進み、目的地を目指す形態の登山を差す。
舞台となるのは六甲山系で、低山の部類に入り、一般登山道は整備され、
ハイキング気分で歩けるコースの多い初心者向けの六甲でも、道を外れ、
薮を漕いで分け入る地図にないルートは、一気に危険度を増し、場合に
よっては命がけの行程ともなりうる。主人公は、日ごろバリ山行を一人で
行っている会社の先輩に初めて同行し、普通の山歩きでは味わえない
面白さを知ると同時に、死と隣り合わせの憂き目にあい、それが、不安定な
経営で混迷を増す勤め先に対する揺らぐ思いを改めて考えるきっかけとなる。
六甲山は、登山ビギナーだった頃、一人で山行を繰り返していた場所で、
個人的な思い入れがある。まんま自己流の私、ジーパンにレッドウィング
のワークブーツ、シャツは綿のボタンダウンというとんでもないいでたちで、
毎週末山に出かけていた。しかもソールは滑りやすく、踏ん張りの利かない
スポンジソール。今思うに、あんなのでも普通に登れていたのは、若さゆえ
の勢い任せで怖いもの知らずの特権だ。のちに、ソールは登山用で実践的な
ビブラムソールに張り替え、ズボンは膝の上げやすいものへと変わった。
山を歩くとは何ぞやを教えくれたのが六甲山だったのだ。
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