最近、杉本苑子の本『竹ノ御所鞠子』(中公文庫)を読みました。とは言っても誰のことか分からないと思いますので、少し解説します。源頼朝の嫡男頼家には数人の子がいました。一幡、公暁、栄実(千手丸)、禅暁、竹御所らです。一幡は比企氏の乱で、公暁は実朝暗殺の後、栄実・禅暁も僧籍になったにも関わらず殺され、残されたのは竹御所だけになりました。北条氏は源頼朝の血をひく竹御所を公家将軍である藤原頼経に嫁がせ、その権威を利用し、鎌倉幕府の安泰を図ろうとしたわけです。
頼経と竹御所は16歳違いで母子のような年齢です。それを画策したのは政子、義時ら北条氏の面々。この話を作家がほっておく筈はなく、冒頭の杉本苑子、葉室麟も『実朝の首』(角川文庫)で取り上げています。二人とも竹御所への想いはそれぞれですが、杉本苑子は女性の立場で書いていますので、時代の流れに翻弄された一人の女性として捉えています。冒頭の本の解説には次のように書かれています。
著者は、『杉本苑子全集18 竹ノ御所鞠子/汚名』の「あとがき」の中で、「でも、それでも、ほんのわずかな史実を通して、源頼朝も嫡孫にうまれながら--いえ、そのような立場に生まれたたがゆえに、鞠子の肩に負わされた業苦の重みがどれほどのものだったか、私たち同性には痛いくらいわかるのです。/理不尽な、抗しがたい暴慢な圧力・・・。それは形こそ違え、現代社会にも存在しています」「短い一生の間に竹ノ御所鞠子が体験した喜びや悲しみも、けっして非現実的な昔ばなしではないのだと思い思い、私はこの小説を書きました」
やはり歴史は面白いですね。歴史の中に登場する人物への妄想はますます広がるばかりです。写真は鎌倉の妙本寺にある源よし子(「よし」は女へんに美しい)の墓です。