ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

モシュコフスキ/ピアノ協奏曲

2020-02-18 18:43:52 | クラシック(協奏曲)
前回のメトネルに続き今日もナクソスです。「誰?」と言いたくなるようなマイナー作曲家まで幅広くカバーするナクソスですが、今日のモリッツ・モシュコフスキもなかなかの上級編ではないでしょうか?19世紀後半に活躍したユダヤ系ポーランド人の作曲家で生前はそれなりの名声を得たようですが、今ではほぼ忘れ去られた存在です。ただ、今日ご紹介するピアノ協奏曲ホ長調は知る人ぞ知る名曲として一部の愛好家から熱い支持を受けています。作曲は1874年。ロマン派音楽が何の留保もなく評論家から大衆まで受け入れられていた時代で、本作も最初から最後まで美しいピアノの響きと華やかなオーケストラサウンドに彩られています。難解な旋律は一つもなく、同時代のブラームス等のような重厚さとも無縁で、ひたすら素直でロマンチックな曲作りが持ち味です。



曲は4楽章形式で、通しで40分弱となかなかのボリュームです。聴きどころは何と言っても第1楽章で、冒頭の木管楽器の奏でる優しい音色に引き続き、ピアノがロマンチックな主題を奏でます。この旋律が本当に美しく、脳内でも繰り返し再生されるぐらい頭にこびりつきます。第2楽章はアンダンテでやや暗めの出だしですが、中間部で夢見るような美しい主題が現れます。第3楽章は一転して軽快なスケルツォで、跳ね回るようなピアノが印象的な愛らしい曲調。終盤はオーケストラも加えてフィナーレのような盛り上がりです。ただ、曲はここで終わらず、第4楽章へ。こちらも快活なテンポのアレグロで、きらびやかなピアノ独奏がオーケストラを牽引して行き、途中で第1楽章の主題を再現しながら正真正銘のフィナーレへと突き進みます。

演奏はナクソスのポーランドものではすっかりお馴染みのアントニ・ヴィト指揮ポーランド国立放送交響楽団、ピアノはマルクス・パヴリクとか言う人です。このCDにはカップリングとして「異国から」と言う6曲からなる組曲が収録されています。タイトル通り「イタリア」「ドイツ」「スペイン」など各国をイメージした曲ですが、正直それほど印象に残るメロディはないのでパスしてもいいでしょう。ピアノ協奏曲だけで十分満足できる内容です。
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メトネル/ピアノ協奏曲集

2020-02-11 20:38:15 | クラシック(協奏曲)
本日も引き続き20世紀のロマン派シリーズと言うことで、ロシアの作曲家ニコライ・メトネルをご紹介します。と言われてもよく知らないと言う方も多いと思います。1880年生まれの1951年没で、ラフマニノフとほぼ同世代。作曲家であると同時にピアノの名手であったこと、作風としてはモダニズムに染まらずロマン派を貫いたこと、さらにはロシア革命後に西側に亡命し終生祖国に帰らなかったことも含めてラフマニノフと共通点が多いです。実際に2人は親交も深かったらしく、お互いに曲を献呈し合ったりしています。ただ、「ビアノ協奏曲第2番」と言うクラシックの枠を超えた超有名曲を持っているラフマニノフに対し、メトネルの作品は名盤紹介に掲載されることも稀で、一部マニアが愛好しているに過ぎません。同時代に同じようなキャリアを辿りながら後世の評価は天地の差があるのが現実です。

ただ、3曲あるピアノ協奏曲はどれも後期ロマン派特有の美しい旋律とロシア音楽ならではの叙情性が散りばめられた逸品揃いで、ラフマニノフが好きな人なら気に入ること間違いなしです。本日はナクソスから発売されている2枚のCDをもとにメトネルの魅力を紹介したいと思います。1枚目は第1番と第3番がセットになっており、ピアノがコンスタンチン・シチェルバコフでウラジーミル・ジーヴァ指揮モスクワ交響楽団の演奏。2枚目が第2番とピアノ五重奏曲のセットで、ピアノが同じくシチェルバコフ、オケがイーゴリ・ゴロフスチン指揮モスクワ交響楽団です。

 

まずはピアノ協奏曲第1番から。ロシア在住時の1918年に書かれた作品で哀調を帯びたロマンチックな旋律とドラマチックなオーケストレーション、そして技巧を凝らしたピアノとが融合した名曲です。とは言え、ラフマニノフの2番が全編美メロのオンパレードと言って良いぐらい聴き所たっぷりなのに対し、メトネルの作品はそこまでの分かりやすさはない。なので何回か聴いたぐらいでは良さはわかりません。繰り返し聴くうちにだんだんハマってきます。全曲途切れることなく演奏される単一楽章形式ですが、実際は4つのパートに分かれており、とりわけ印象的な主題は第1部7分過ぎ、第2部10分過ぎ、そして第4部4分半過ぎに表れます。どれも胸を熱くするようなロマンチックな旋律ばかりです。フィナーレのピアノの盛り上げ方も感動的です。

第2番はその10年後の1928年に初演された作品。この間にメトネルは祖国ロシアを離れ、パリを拠点に活動していたようですが、作風的には第1番と似ており、ロシアの大地の匂いが濃厚に感じられる作品です。曲は伝統的な3楽章形式で、中でも第1楽章が最も素晴らしく、悲劇的な色彩を帯びた冒頭部から、中間部での情熱的な盛り上がりと聴き所たっぷりです。美しい緩徐楽章の第2楽章ロマンツァ、華やかなロンド形式の第3楽章も捨て難い魅力があります。

第3番は作曲年もぐっと下って1943年、イギリス在住時に書かれた作品です。依然としてロマン派の作風を維持していますが、第1番や第2番のような分かりやすい旋律は少ないです。特に第1楽章は16分と長尺なわりに明確な盛り上がりポイントもなくやや取っつきにくいですかね。本作のハイライトは第3楽章。情熱的な展開の冒頭部を経て、6分過ぎに満を持してロマンチックな主題が現れます。その後再び冒頭の主題に戻った後、フィナーレへと突き進みます。前2曲のような傑作とまでは言えませんが、それでも良作とは言えるでしょう。

メトネルが生涯で残したオーケストラ作品はこの3曲のみ。後はほとんどがピアノ曲ばかりで、交響曲や交響詩にも傑作を残したラフマニノフと違い、あくまでピアニストの視点から曲作りをしていたことがわかります。ただ、この3曲のピアノ協奏曲は決してピアノの技巧一辺倒と言うこともなく、オーケストラも充実した優れたコンチェルトですのでピアノ協奏曲好きなら一聴の価値はあると思います。
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ショパン/ピアノと管弦楽のための作品集

2020-01-09 23:52:55 | クラシック(協奏曲)
新年第1弾はショパンを取り上げたいと思います。有名な「別れの曲」「ノクターン」を始め多くの名曲で知られるショパンですが、ほとんどの作品がピアノ独奏のための曲でオーケストラ付きの作品となると以前に当ブログでも紹介した2曲のピアノ協奏曲の他には、今日ご紹介する「ラ・チ・ダレム変奏曲」「ポーランド民謡による大幻想曲」「ロンド・クラコヴィアク」「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」の4曲のみです。いずれもピアノ独奏付きの管弦楽曲で広い意味でのピアノ協奏曲のようなものとも言えます。同時代に活躍し、ピアニストとしてショパンと並び称される存在であったリストが作曲面ではピアノ曲以外にも交響詩等の面で大きな足跡を残したのに対し、ショパンはあくまでピアニストとして演奏することを前提に曲を作っていたようです。2曲のピアノ協奏曲はともかく、これらの管弦楽作品を録音したディスクはあまりありませんでしたが、このたびヤン・リシエツキのピアノ、クシシュトフ・ウルバンスキ指揮北ドイツ放送エルプフィルハーモニー管弦楽団のCDを入手しましたのでそれをもとにご紹介します。



曲紹介は収録順ではなく作曲年順に行います。ますはショパンが17歳の時に書いた「ラ・チ・ダレム変奏曲」から。こちらは正式名称を「モーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』の『お手をどうぞ』による変奏曲」と言いますが、長すぎるので『お手をどうぞ』のイタリア語ラ・チ・ダレムを取ってこう呼ばれています。タイトル通りモーツァルトのオペラの有名なアリアを題材にした曲で、♫タンタタタンタンタンと軽快な旋律を緩急織り交ぜたさまざまなスタイルで演奏して行きます。続いて20歳の時に書かれた「ポーランド民謡による大幻想曲」と「ロンド・クラコヴィアク」。どちらもポーランドの民族音楽の要素が濃厚で、前者は第2楽章に「もう月は沈み」と言う美しい民謡が主題に使われていますし、後者もクラコヴィアクと言うクラクフ地方の民族舞踊に着想を得て作曲されています。ショパンはピアノ曲でも生涯にわたってマズルカやポロネーズと言オったポーランドの民族音楽にちなんだ作品を発表し続けましたので、これら管弦楽付きの曲もその一環と言えます。最後は「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」。ショパン24歳の時の作曲でこの曲を最後に生涯を通じてオーケストラ付きの作品を1曲も書きませんでした。実際この曲も前半のアンダンテ・スピアナートの部分はピアノ独奏ですし、後半のポロネーズもオーケストラが目立つのは最初と最後のみで途中はピアノの伴奏程度です。ショパンがオーケストラに力を入れなかった原因としては、彼が管弦楽法を熟知していなかったからと言う説もありますし、性格的に内向的なため多くの聴衆の前より少人数のサロンで演奏する方を好んだためピアノ独奏曲ばかりになったとも言われています。とは言え、ピアノ曲であろうがオーケストラ付きであろうが、旋律自体はどれも魅力的なことに変わりなく、スローテンポの曲は夢見るような美しさですし、ポロネーズやロンド等の舞曲ではきらびやかで明るさに満ち溢れた音の世界を堪能できます。



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メンデルスゾーン/ピアノ協奏曲第1番&第2番

2019-12-10 23:58:15 | クラシック(協奏曲)
本日はメンデルスゾーンのピアノ協奏曲第1番&第2番をご紹介します。メンデルスゾーンの協奏曲と言えばヴァイオリン協奏曲ホ短調が「3大ヴァイオリン協奏曲」の一つに数えられるなど圧倒的知名度を誇っていますが、一方でピアノ協奏曲の方は演奏機会も少なく、地味な存在です。理由はよくわかりませんが、一つ考えられるのが規模の小ささ。第1番は約18分、第2番は約22分とどちらも短く、ハイドンやモーツァルトの時代ならともかく、19世紀に入ってベートーヴェンが「皇帝」をはじめとした大作を残しただけにそれより一世代下のメンデルスゾーンの古典派スタイルが古臭く聴こえたのかもしれません。ただ、形式的にはともかく、内容的にはドイツ・ロマン派の真髄とでも言うべきもので、短い中にもドラマチックな展開や美しい旋律がぎっしり詰まっています。

第1番はメンデルスゾーン22歳の時、第2番はその6年後に書かれた作品ですが構成的には非常によく似ており、第1楽章は短調のメランコリックな旋律ながら展開的にはドラマチックな盛り上がりを見せます。第2楽章は一転して優美な緩徐楽章でピアノが夢見るような美しい旋律を奏でます。第3楽章は再び華々しい盛り上がりを見せますが、曲調は明るく祝祭的な雰囲気のうちに幕を閉じます。3楽章とも切れ目なく演奏されるところも同じです。出来栄えについては甲乙付けがたいですが、個人的には第1番の方が第2楽章の美しさやフィナーレの華やかさの点でやや優れているかなと思います。



CDについてはこの2曲がセットで収録されているものがあまりありませんでしたが、最近になってアンドラーシュ・シフのピアノ、シャルル・デュトワ指揮バイエルン放送交響楽団のものが再発売されたのでそちらを購入しました。2人とも今や大ベテランですが、録音当時(1982年)はデュトワが40台半ば、シフが20代後半と脂の乗り切った時期で素晴らしい演奏を聴くことができます。
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ハチャトゥリアン/ピアノ協奏曲

2019-09-30 23:41:32 | クラシック(協奏曲)
本日はハチャトゥリアンのピアノ協奏曲です。ハチャトゥリアンについては本ブログの記念すべき第1回でヴァイオリン協奏曲を、その後もガイーヌ&仮面舞踏会を取り上げており、久々の登場ですね。プロコフィエフ、ショスタコーヴィチと並んでソ連を代表する作曲家ですが、音楽性はかなり違います。プロコフィエフやショスタコーヴィチはロシア人で、ベースはあくまでロシア音楽なのに対し、ハチャトゥリアンはグルジア(今はジョージアですか)生まれのアルメニア人。地理的にはイランやトルコに近く、かなりオリエンタルな香りが強いです。今日ご紹介するピアノ協奏曲は1936年、ハチャトゥリアンが33歳の時に書かれた彼の出世作で、ここでも民族音楽の影響が濃厚に感じられます。



曲は冒頭からかなり荒々しい始まり。ピアノとオーケストラが一体となってオリエンタル風の旋律をエネルギッシュに奏でます。中間部以降はピアノのカデンツァも挟まれますが、このあたりは20世紀の音楽らしく調性もあまり感じられません。第2楽章はゆったりしたアンダンテで、哀調あふれる民族音楽風の旋律が全編を彩っています。途中でフレクサトーンという珍しい楽器が使われ、風を模したような♪ヒョヨヨ~ンというような音がさらにエキゾチックさを増します。聴きこむうちに耳について離れない独特のメロディですね。第3楽章は再び情熱的な展開で始まり、中間部で3分にも及ぶ長いピアノのカデンツァを挟んで、最後は華々しくフィナーレを迎えます。

CDはあまり数は多くありませんが、私が購入したのは1971年録音の小澤征爾指揮ニュー・フィルハーモニア管弦楽団、ピアノはフィリップ・アントルモンのものです。今ではすっかりご老体となった小澤さんも当時36歳。ちょうどサンフランシスコ交響楽団の音楽監督に任命されて、世界的なスターダムに駆け上がろうとしている頃ですね。このCDにはフランツ・リストの「ハンガリー幻想曲」も収録されています。こちらは16分程の作品で、ハンガリー民謡をもとにした作品のようですが、正直メロディはかなりベタかな。リストの数ある作品の中では上位に来る曲ではないです。
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