ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

マッコイ・タイナー/テンダー・モーメンツ

2024-07-05 18:37:50 | ジャズ(モード~新主流派)

少し前にジョン・コルトレーンの「コルトレーン・サウンド」を取り上げた際に、コルトレーンのサウンドを変えたのはマッコイ・タイナーだと書きました。そのぐらい60年代前半のコルトレーンとマッコイは切っても切れない関係で、「マイ・フェイヴァリット・シングス」「オーレ」等のアトランティックの傑作群を皮切りに、その後のインパルス移籍後も2人(+エルヴィン・ジョーンズ)の蜜月関係は続きます。ただ、どんどん前衛志向を強めるコルトレーンにマッコイは段々ついていけなくなり、ついに1965年にマッコイとコルトレーンは決別。その後、コルトレーンは完全にフリージャズの世界に突入します。デビュー当初はかなり先鋭的なピアノが売りだったマッコイですが、それでも調性を無視した音楽と言うのは彼の目指すところではなかったようです。

その後、マッコイはブルーノートに移籍。1967年にジョー・ヘンダーソンと組んだ「ザ・リアル・マッコイ」を発表した後、同年の12月に吹き込んだのが本作「テンダー・モーメンツ」です。マッコイはインパルス在籍時の「リーチング・フォース」「バラードとブルースの夜」等リーダー作ではトリオ作品の印象が強いですが、本作はなんと6本の管楽器を従えたノネット(9重奏)で分厚いサウンドを聴かせてくれます。私は70年代以降のジャズに疎いので聴いたことはないのですが、マッコイはその後も大編成の作品をたびたび残しているようなので元々アンサンブル指向が強いのでしょうね。メンバーはリー・モーガン(トランペット)、ジュリアン・プリースター(トロンボーン)、ベニー・モーピン(テナー)、ジェイムズ・スポールディング(アルト&フルート)、ボブ・ノーザン(フレンチホルン)、ハワード・ジョンソン(チューバ)、ハービー・ルイス(ベース)、ジョー・チェンバース(ドラム)と言った布陣。リー・モーガンを除けばいかにもブルーノート新主流派と言った面々が名を連ねています。なお、フレンチホルンとチューバは完全にアンサンブル要員。トロンボーンのプリースターも2曲目”Man From Tanganyika"で短いソロを取るぐらいで基本的に前述の2人と重低音アンサンブルを担当しています。

全6曲。全てマッコイが書き下ろした自作曲です。作品はまず”Mode To John"で幕を開けます。ここでのJohnとはもちろん同年7月にガンでこの世を去ったジョン・コルトレーンのことですね。音楽的に袂を分かったとは言え、コルトレーンへの敬愛の念は持ち続けていたのでしょう。まるでインパルス時代のコルトレーンを思わせるような切れ味鋭いモーダルナンバーで亡き盟友を偲んでいます。マッコイの高速ソロはもちろんのこと、モーガン、スポールディング、モーピンもエネルギッシュなソロを聴かせます。2曲目は”Man From Tanganyika"。曲名はタンザニアにあるタンガニーカ地方から取ったもので、アフリカの大地を思わせるような雄大な雰囲気を感じさせる曲です。ソロはマッコイ→スポールディングのフルート→プリースター→モーガンの順です。3曲目”High Priest”は解説書曰くセロニアス・モンクに捧げた曲らしいです。Monk=修道士とPriest=神父をかけた曲名でしょうか?曲は確かにモンクっぽいやや風変わりなメロディですね。何でもモンクはバド・パウエルと並んでマッコイが最も影響を受けたピアニストの一人だとか。演奏スタイルは全然違うような気がしますが・・・

4曲目”Utopia"はこれぞブルーノート新主流派と言った感じの曲です。スポールディング→モーガン→モーピン→マッコイとモーダルなソロを展開して行きます。5曲目”All My Yesterdays"は幻想的なバラードで、管楽器のソロはなく、分厚いアンサンブルをバックにマッコイがたゆたうようなピアノを聴かせます。ラストラックは”Lee Plus Three”。タイトルどおりリー・モーガンとピアノトリオによる演奏。ここまで管楽器アンサンブルの中で与えられた役割をこなしていたモーガンがまるで鬱憤を晴らすかのようにバリバリと吹きまくります。マッコイのピアノソロもいつになくファンキーです。

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ジョー・ヘンダーソン/ザ・キッカー

2024-04-12 19:11:55 | ジャズ(モード~新主流派)

ジョー・ヘンダーソン、略してジョーヘンは1960年代以降のジャズを語る上では欠かせない人物です。本ブログではだいぶ前に晩年の作品である「ラッシュ・ライフ」を取り上げましたが、全盛期である60年代の作品を取り上げるのは初ですね。ジョーヘンと言えば「ページ・ワン」「インナー・アージ」「モード・フォー・ジョー」等ブルーノートのイメージが強いですが、本作「ザ・キッカー」は1967年8月録音のマイルストーン盤です。マイルストーンはリヴァーサイド・レコードの設立者であったオリン・キープニュースが同レーベルが1964年に倒産した後、前年の1966年に設立したレコード会社です。ジョーヘンは同レーベルの看板ミュージシャンの1人として10枚以上のリーダー作を残しており、本作はその最初の作品です。メンバーはマイク・ローレンス(トランペット)、グレイシャン・モンカー3世(トロンボーン)、ケニー・バロン(ピアノ)、ロン・カーター(ベース)、ルイス・ヘイズ(ドラム)という布陣。このうちマイク・ローレンスについてはあまり聴いたことがないですが、ジョーヘンが発掘した白人トランぺッターのようです。当時24歳のケニー・バロンのピアノにも注目です。

全8曲ですが、60年代という時代を象徴するかのようにさまざまなスタイルのジャズが混在しています。まず目立つのはジョーヘンのブルーノート時代の自作曲"Mamacita""The Kicker""Mo' Joe"。いずれも彼がサイドメンとして参加した作品からの曲で”Mamacita”はケニー・ドーハム「トロンペタ・トッカータ」、"The Kicker"”Mo' Joe”はホレス・シルヴァー「ソング・フォー・マイ・ファーザー」と「ケイプ・ヴァーディアン・ブルース」からの選曲です。いずれもファンキーで耳馴染みの良い曲ばかりで、ジョーヘンが新興レーベルへの手土産代わりに自信作を再演したのでしょう。それ以外はモード~新主流派風の演奏がメインで、エリントン楽団の”Chelsea Bridge"、マイルス作でビル・エヴァンスが演奏した”Nardis"、スタンダードの”Without A Song”も60年代風のモーダルな解釈です。1曲だけ毛色が違うのがアントニオ・カルロス・ジョビン作の”O Amor Em Paz(平和な愛)"。当時流行していたボサノバで、この曲だけ2管抜きのワンホーンカルテットです。これがまた見事にハマっており、バロンのお洒落なピアノをバックにジョーヘンが気持ち良さそうにブロウしています。以上、モードジャズを中心にファンキージャズからボサノバまで60年代後半のジャズシーンを詰め込んだ魅力的な一品です。

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ジョン・コルトレーン/コルトレーン・サウンド

2024-03-11 21:12:59 | ジャズ(モード~新主流派)

1959年にプレスティッジからアトランティック・レコードに移籍したジョン・コルトレーンはジャズ史上に残る名盤「ジャイアント・ステップス」を発表。モードジャズの時代を新たに切り拓いたとされています。ただ、実際はそう単純なものではなく、以前ご紹介した「コルトレーン・ジャズ」はウィントン・ケリー・トリオをバックに従えたハードバップ・スタイルの演奏です。コルトレーンのサウンドを決定的に変えたのは、やはりマッコイ・タイナーとの出会いでしょう。1960年10月、コルトレーンはフィラデルフィアからニューヨークにやってきたばかりのタイナー(当時21歳)、スティーヴ・デイヴィス(ベース)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラム)をメンバーに迎え、かの歴史的名盤「マイ・フェイヴァリット・シングス」を生み出します。本作「コルトレーン・サウンド」はその一連のセッションから未収録曲を後に編集し、1964年に発売されたものです。

従来の演奏との違いは冒頭"The Night Has A Thousand Eyes(夜は千の目を持つ)"を聴いただけで明らかです。ジェリー・ブレイニンという作曲家が書いたこのスタンダード曲。ホレス・シルヴァー「シルヴァーズ・ブルー」のバージョンも素晴らしいですが、ここでは明らかにハードバップとは違うアプローチがなされています。天空を飛翔するようなタイナーのピアノ、アグレッシブなジョーンズのドラム、そして全てから解き放たれたように自由なアドリブを繰り広げるコルトレーン。まさに唯一無二のコルトレーン・ワールドがそこに広がります。4曲目”Body And Soul”も数多のジャズメンによって演奏されてきましたが、ここでは完全にモード風のアプローチです。

自作曲も素晴らしいです。2曲目”Central Park West”は後にスタンダード曲となった名バラード(個人的には大坂昌彦・原朋直クインテットの演奏がおススメです)。ここではコルトレーンはソプラノサックスを使用し、セントラル・パークの冬の夕暮れを思い起こさせるようなメランコリックで美しい旋律を歌い上げます。5曲目"Equinox"もスピリチュアルな雰囲気に満たされたスローブルース。3曲目”Liberia”と6曲目”Satellite”では後のフリー時代を予感させるようなアグレッシブなアプローチも見られます。本作は上述のように「マイ・フェイヴァリット・シングス」に漏れた曲の寄せ集めですが、そんなことが信じられないぐらいの充実の内容で、全盛期のコルトレーン・カルテットのクオリティの高さを証明する一枚です。

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秋吉敏子&チャーリー・マリアーノ/トシコ=マリアーノ・カルテット

2021-02-10 18:42:34 | ジャズ(モード~新主流派)

私がジャズを本格的に聴き始めた1990年代半ば頃、ちょうど日本人ピアニストの大西順子が注目されていました。当時の宣伝文句が「日本人として初めて名門ブルーノートと契約!」とか言うものでした。その後2000年代に入ると山中千尋が登場し、こちらも名門ヴァーヴ・レコードと契約し、話題になりました。他にもアキコ・グレース、上原ひろみ等世界を股にかけて活躍する日本人女性ピアニストは今では珍しくありません。(個人的体験でいくと、山中千尋とアキコ・グレースの演奏はライブで聞いたことがあります。)ただ、そんな彼女達の大・大先輩と呼べるのが今日ご紹介する秋吉敏子です。1929年満州生まれで、戦後に日本に引き揚げてから演奏活動を開始。1953年に当時来日していたオスカー・ピーターソンに才能を見出され、翌年にノーグラン(後のヴァーヴ)から「トシコズ・ピアノ」を発表。リズムセクションがハーブ・エリス、レイ・ブラウン、J・C・ハードという凄いメンツです。当時はまだ日本が戦争で焼け野原になって10年も経っていない時代。経済面でも文化面でも日米の差が歴然としていた時代ですから、彼女の本場アメリカでの成功はまさに快挙でした。その後もアメリカに渡ってコンスタントに演奏活動を行い、1959年に白人アルト奏者のチャーリー・マリアーノと結婚。残念ながら67年に離婚してしまいますが、今度はテナー奏者のルー・タバキンと再婚。トシコ=タバキン・ビッグバンドを結成し、「孤軍」をはじめ多くの作品を残します。その功績を鑑みると、現代に至るまで国際的に最も成功した日本人ジャズ奏者と言ってよいのではないでしょうか?

今日ご紹介するのは秋吉が当時の夫チャーリー・マリアーノと組んで1960年にキャンディド・レーベルに吹き込んだ1枚です。2人が見つめあうジャケットからも当時はラブラブだったんだろうな~というのが想像できます。なお、2人以外のメンバーはジーン・チェリコ(ベース)とエディ・マーシャル(ドラム)です。マリアーノはボストン出身ですが、50年代半ばは西海岸で活躍。ベツレヘムを中心に多くの吹き込みを残しています。そこでの演奏はチャーリー・パーカーの影響を強く受けたと思しき正統派ビバップですが、ここでは60年と言う時代的背景もあってかモードジャズ風の演奏です。もう少し後になるとフリージャズにはまったり、インド音楽を取り入れるなどかなりアバンギャルドな活動をするマリアーノですが、この頃の演奏は普通に聴けます。秋吉のピアノはそこまで激しく自己主張するわけでもなく、どちらかと言うと夫のマリアーノの方が前に出ている感じですが、バッキングにソロにしっかり演奏をまとめています。1曲目の"When You Meet Her"と2曲目”Little T”はどちらもマリアーノの自作曲で、前者はなかなかアグレッシブな演奏で。後者は13分近い長尺でやや思索的な感じのするモーダルな曲です。4曲目の”Deep River”は有名な黒人霊歌をマリアーノが朗々と歌い上げます。3曲目の”Toshiko's Elegy”と5曲目の"Long Yellow Road"は秋吉の自作曲で、どちらも後年にトシコ=タバキン・ビッグバンドで演奏されています。ビッグバンド版の方が有名ですが、コンボ版もなかなか出色の出来です。

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ハンク・モブレー/ザ・ターンアラウンド

2016-05-31 23:02:41 | ジャズ(モード~新主流派)

久々の更新はハンク・モブレーの後期の代表作「ザ・ターンアラウンド」をご紹介します。モブレーと言えば、以前に「ポッピン」で取り上げたように、50年代はリー・モーガンやホレス・シルヴァーらと並ぶブルーノートの看板アーティストとして活躍。ハードバップの王道を行くテナー奏者として多くの名演を残しました。次に注目を浴びたのが“Recado Bossa Nova”で有名な1965年の「ディッピン」で、ボサノバやジャズ・ロックなど当時の流行を取り入れたサウンドで商業的成功を収めました。その後の「ア・キャディ・フォー・ダディ」「ハイ・ヴォルテージ」「ザ・フリップ」等も同じ路線ですね。ただ、個人的には60年代後半以降のモブレーは売れ線狙いのベタなサウンドが前面に出てあまり評価していません(と言うよりもこの時期のブルーノートはモブレーに限らず全体的にハズレが多い)。



本作「ザ・ターンアラウンド」は、1963年3月のセッション4曲と1965年2月のセッション6曲の計10曲を収録したもので、「ディッピン」でコマーシャル路線を歩む前のいわば過渡期のモブレーをとらえた作品です。タイトルトラックである“The Turnaround”は典型的なジャズロックで、「ディッピン」以降を予感させるような曲ですが、それ以外の曲はモード~新主流派風のストイックな曲が多く、モブレーの全カタログの中でも異彩を放っている作品とも言えます。実は60年代前半のモブレーは録音が極端に少なく、彼のキャリアの中では停滞期だったと言われています。どうもモブレーなりにハードバップからモードジャズ路線への転換を図っていたようなのですが、なかなかうまく行かなかったというのが実情のようですね。ただ、そんな模索の中で生み出された本作は一聴の価値があるものです。

まず、63年のセッションですが、メンバーはドナルド・バード(トランペット)、ハービー・ハンコック(ピアノ)、ブッチ・ウォーレン(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)という布陣。モブレーなりにモードジャズを見事に解釈した“East Of The Village”が会心の出来です。続く“The Good Life”は本作中唯一の歌モノで、トニー・ベネットがヒットさせたバラードをしっとり演奏します。あとの2曲はボーナストラックですが、サイ・オリヴァー作曲の“Yes Indeed”がノリノリのダンサブルな曲調で悪くないです。

続く65年のセッションは、フレディ・ハバード(トランペット)、バリー・ハリス(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、ビリー・ヒギンズ(ドラム)というラインナップ。前述のジャズ・ロック“The Turnaround”を除けば、“Straight Ahead”“Pat 'N' Chat”と硬派の演奏が並びます。唯一のバラード“My Sin”も55年の「ハンク・モブレー・カルテット」の曲を再演したものですが、10年前に比べてモーダルでどことなくスピリチュアルな雰囲気です。他の2曲はCDのみのボーナストラックですが、ワルツ風の伴奏に乗ってモブレーとハバードがファンキーなソロを繰り広げる“Hank's Waltz”が素晴らしい出来で、なぜオリジナルのLPに収録されなかたのか不思議です。一般的な知名度では同年に発表された「ディッピン」にはるかに劣る本作ですが、アルバムの内容としてはこちらの方が上ですね。もっとも私としては、50年代のハードバップ期こそモブレーの黄金期だと思いますが。

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