ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ヒア・カムズ・ルイ・スミス

2024-02-24 11:38:13 | ジャズ(ハードバップ)

本日は「幻」のトランぺッター、ルイ・スミスを取り上げます。メンフィス出身でブルーノートから2枚のリーダー作を発表したものの、わずか数年でシーンから姿を消しました。サイドメンではケニー・バレルの「ブルー・ライツ」セッションや同じメンフィス出身のブッカー・リトル(実はいとこらしい)、フィニアス・ニューボーン、ジョージ・コールマンらと発表した「ダウン・ホーム・リユニオン」にも参加していますが、私の知る限りはそのくらいです。何でも早々に引退して高校で音楽の教師をしていたとか。せっかくの才能をもったいない!と思うかもしれませんが、基本的にジャズは今も昔もマイナー音楽。我々のような一部の熱心なファンに支えられてはいますが、レコードの売上という点では華やかなポップスの世界とは比較になりません。安定した生活を求めるなら学校の先生の方が良かったのでしょうね。ただ、スミスは1978年以降にデンマークのスティープルチェイスに10枚以上もの作品を吹き込みます。カッコ付きで「幻」としたのはそのためです。一番最後の作品が2004年と言うから、70歳過ぎまで活動していたようです。ただ、私はそれらの作品を聴いたことないですし、ジャズ愛好家の多くもやはりルイ・スミスと言えばブルーノートの作品群を思い浮かべるのではないでしょうか?

さて、本作品はブルーノート作品と言いつつ、1958年2月の録音時はボストンのレコード会社であるトランジションのために収録されたそうです。トランジションはわずか2年で消滅した泡沫レーベルですが、ドナルド・バードの「バーズ・アイ・ヴュー」「バード・ブロウズ・オン・ビーコン・ヒル」等を残しており、一部マニアには評価が高いレーベルです。ただ、本作がリリースされる前に倒産してしまい、そのままではお蔵入りになってしまうところをブルーノート社長のアルフレッド・ライオンが買い取ったという経緯です。ただ、アルバムを聴けばライオンのお眼鏡にかなったのも納得です。メンバーはリーダーのスミスに加え、キャノンボール・アダレイ(アルト)、ダグ・ワトキンス(ベース)、アート・テイラー(ドラム)、ピアノが2月4日のセッションがデューク・ジョーダン、2月9日がトミー・フラナガンという布陣です。ちなみにキャノンボールはレコード会社の契約の関係でバックショット・ラファンクという変名でクレジットされていますが、聴く人が聴けば丸わかりですね。

アルバムはまずスミスのトランペットが高らかに鳴り響く”Tribute To Brownie”で始まります。当時まだ駆け出しのピアニストだったデューク・ピアソンの作曲で、タイトル通り2年前に夭折したクリフォード・ブラウンに捧げた曲です。ここでのスミスのプレイはブラウンばり、とまではさすがに行きませんが、十分に力強いソロを聴かせてくれます。縦横無尽に吹きまくるキャノンボール・アダレイのソロも圧巻です。2曲目以降はスミスのオリジナル曲が中心。唯一のスタンダード曲”Stardust”ではスミスのバラード演奏が聴けますが、こちらの出来はまずまずと言ったところ。バラードの上手さに関してはリー・モーガンやドナルド・バードの方が上ですかね。残り4曲はスミスのオリジナルですが、3曲目”Ande”はほぼチャーリー・パーカー”Donna Lee”のパクリなので実質は3曲です。中では5曲目”South Side”とラスト6曲目”Val’s Blues”が上質のハードバップです。前者はラテンフレーバーを感じさせる明るい曲調で、全員が楽しそうに演奏しているのが伝わってきます。後者はブルースと言いながら急速調のパップ曲で、煽り立てるテイラーのドラミングに乗せられるようにキャノンボールとスミスが力強いソロを取り、フラナガンのピアノソロも良いアクセントをつけています。勢いに乗ったスミスは翌月「スミスヴィル」をブルーノートに吹き込みますが、こちらも良い作品なのでまた近いうちにご紹介します。

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