ケニー・ドーハムと言えば、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの栄えある初代トランぺッターとして有名ですが、レコードに残されたのは1955年11月の「カフェ・ボヘミアのジャズ・メッセンジャーズ」のみで、翌1956年にはグループを離脱します。そうして彼が結成したのがジャズ・プロフェッツ。伝言を届けるmessengersに対し、預言者の意味を持つprophetsと名付けたあたりに彼のグループ結成にかける意気込みが伝わってくるようです。ドーハム以外のメンバーは、J・R・モンテローズ(テナー)、ディック・カッツ(ピアノ)、サム・ジョーンズ(ベース)、アーサー・エッジヒル(ドラム)。1956年4月4日録音の本作は大手レコード会社のABCパラマウントから発売されました。
ただ、結果はと言うと、同グループが残したのはこの1作のみ。ジャケットにVol.1と書いているにもかかわらず、Vol.2が発売されることはありませんでした。あえて言うなら同年5月にブルーノートに吹き込まれたライブ盤「カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム」が、ピアノがボビー・ティモンズに代わり、ギターのケニー・バレルが加わっただけでほぼ同じメンバーですが、ジャズ・プロフェッツの名前は冠していません。1990年にアート・ブレイキーが亡くなるまで活動を続けたジャズ・メッセンジャーズとは対照的ですね。ドーハム自身は1960年代のモード/新主流派時代もリーダー作を出し続けるなどプレイヤーとしては常に第一線で活躍しましたが、リーダーとしてバンドをまとめるのはまた違った才能が必要だったのでしょうね。
全5曲。うち4曲はドーハムのオリジナルとなっていますが、1曲目"The Prophet"はソニー・ロリンズの"Airegin"、3曲目”DX"はジミー・ヒース作でマイルスやリー・モーガンが演奏した”C.T.A."によく似ています。2曲目"Blues Elegante"はサム・ジョーンズの重厚なベースソロから始まるスローブルースですが、後半に転調してテンポが上がるところがカッコいいです。4曲目は唯一のスタンダード曲で、ビリー・ホリデイのバラード"Don't Explain"。ドーハムがカップミュート奏法で彼特有の枯れた味わいを出します。ラストの"Tahitian Suite"は”タヒチ組曲”と言う意味ですが、全然南国っぽくない哀愁漂うナンバーです。演奏面では、力強いプレイの中にも哀愁を感じさせるドーハムのトランペットがもちろん主役ですが、J・R・ モンテローズとディック・カッツのプレイにも注目です。2人とも白人ですが作品を通して黒っぽい演奏に徹しています。