ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ロイ・ヘインズ/アウト・オヴ・ジ・アフタヌーン

2024-08-04 21:55:21 | ジャズ(その他)

先日、ベニー・ゴルソンのところで存命中のジャスジャイアンツ達について述べましたが、その中でも最長寿はドラマーのロイ・ヘインズです。1925年3月13日生まれで現在99歳!さすがに最近は音楽活動は行っていないようですが、80代半ばまでは作品を発表していたというから恐れ入ります。活動開始は1940年代半ばまで遡り、チャーリー・パーカーやバド・パウエル、ワーデル・グレイらビバップ期の天才達との共演歴もあるまさに生き字引的存在です。

その後の経歴を見るとサラ・ヴォーンの歌伴を務める一方で、ソニー・ロリンズ、スタン・ゲッツら主流派からエリック・ドルフィーら前衛寄りのジャズまで幅広いジャンルのジャズメンと共演するなどドラマーとしてオールラウンドの活躍を見せています。リーダー名義の作品も意外と多く、プレスティッジ系列の「ウィ・スリー」「クラックリン」、パシフィック・ジャズ盤の「ピープル」、そして本日ご紹介するインパルス盤「アウト・オヴ・ジ・アフタヌーン」が代表作です。

1962年5月録音の本作はジャズ界きっての鬼才と言われる盲目のマルチリード奏者ローランド・カークをゲストに迎えたカルテット作品。ジャケット左端で楽器をたくさん抱えているのがそうですね。ちなみに残りのメンバーは左から順にピアノのトミー・フラナガン、ドラムのシンバルを手に持つリーダーのヘインズ、そしてベースのヘンリー・グライムスです。

全7曲。スタンダード4曲、オリジナル3曲と言う構成。オリジナル曲は1960年と言う時代を反映してモード色の強い内容ですが、スタンダード曲の方もオーソドックスなスタイルとは一味も二味も違います。理由はやはりカークの存在でしょう。1曲目"Moon Ray"はスイング時代の人気バンドだったアーティー・ショー楽団の曲なんですが、最初こそカークがテナーで普通にテーマメロディーを吹くのですが、アドリブになるとマンゼロと言うあまり聞き馴染みのない管楽器を吹き始め、さらにはテナーとマンゼロを2本同時に口にくわえて吹いたりします。続く定番の歌モノ"Fly Me To The Moon"も同様で最初はメロディアスなのですが途中からマンゼロでかなりエキセントリックなアドリブを繰り出します。

ただ、注意しておきたいのは本作でのカークのプレイは決して前衛ジャズではないと言うこと。60年代になると徐々にフリージャズも市民権を得始めますが、それら無調の音楽とは違い、ここでのカークのソロはエキセントリックではあるもののちゃんとメロディを吹いてます。そもそも共演のトミー・フラナガンがモダンジャズの王道を行くピアニストですからね。各曲のソロでもカークが多少ぶっ飛んだプレイをしても前後をフラナガンがきっちり抑揚の効いたピアノソロでまとめています。特に5曲目"If I Should Lose You"なんかはカークがストリッチと言うサックスの変形楽器を吹きますが、そこまで激しいアドリブもなく意外と普通に聴けるジャズです。リーダーのヘインズについての言及が少なくなりましたが、作曲者としてオリジナル曲3曲を提供していると同時に、演奏面では全編を通じて熟練のドラミングでリズムを刻むだけでなく、隋所で卓越したドラムソロを披露し、演奏全体を引き締めています。

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