今日、8月27日は貝原益軒の命日である。
享年85歳。正徳四年(一七一四年)の出来事であった。
もともと病弱であった益軒は、自らの体験から、短命と思われる人も養生さえよく行えば長く生きられると主張した。
その考えを纏めたのが有名な『養生訓』である。
夫人である東軒に先立たれた益軒、84歳のときの著作である。
『養生訓』は「接して漏らさず」の言葉だけが独り歩きして、なんだか性生活の指南書のように思われている節があるが、益軒の著述は食べ物から、呼吸法、気の持ち方など多岐に分かれていて、性に関する部分はほんの一部である。
でも、少し気になるので、「接して漏らさず」の項を拾い読みしてみる。
四十以上の人は、交接のみしばしばにして、精気をば泄(もら)すべからず。四十以後は、腎気やうやく衰る故、泄さざれども、壮年のごとく、精気動かずして滞らず。此法行ひやすし。この法を行へば、泄さずして情慾はとげやすし。然れば、是気をめぐらし、精気をたもつ良法なるべし
「漏らさなければ」どんどん性行為を行ってよい、と言っている訳ではなく、
年若き時より、男女の慾ふかくして、精気を多くへらしたる人は、生れ付さかんなれ共、下部の元気すくなくなり、五臓の根本よはくして、必短命なり。つゝしむべし。
性欲は、なるべく慎んだほうがよいと忠告し、回数についても言及している。
人、年二十者は四日に一たび泄す。三十者は八日に一たび泄す。四十者は十六日に一泄す。五十者は二十日に一泄す。六十者は精をとぢてもらさず。もし体力さかんならば、一月に一たび泄す。気力すぐれて盛なる人、慾念をおさへ、こらへて、久しく泄さざれば、腫物を生ず。六十を過て慾念おこらずば、とぢてもらすべからず。わかくさかんなる人も、もしよく忍んで、一月に二度もらして、慾念おこらずば長生なるべし
よくよく読んでみると、こんな内容である。
医学的に正しいのかどうか分からないが、他の記述では現代にも通じるような部分も多い。
()内の宛先は、筆者記入。
(飲兵衛諸氏へ)
酒を多くのんで、飯をすくなく食ふ人は、命短し。
(怒髪仙人へ)
怒の後、早すべからず。食後、怒るべからず。憂ひて食すべからず。食して憂ふべからず。
(食いしんぼさんへ)
人生日々に飲食せざる事なし。常につゝしみて欲をこらへざれば、過やすくして病を生ず。
(逆境にある人へ)
人をうらみ、いかり、身をうれひなげきて、心をくるしめ、楽しまずして、むなしく過ぬるは、愚かなりと云べし。たとひ家まどしく、幸なくしても、うへて死ぬとも、死ぬる時までは、楽しみて過すべし。貧しきとて、人にむさぼりもとめ、不義にして命をおしむべからず。
益軒が22歳年下の東軒と結婚したのは39歳の時。
東軒は儒学、漢詩などに優れ、夫の著述をよく助けたと言うが、益軒より一年早く62歳で死去。
原典が分からないので詳しいことは分からないが、清水桂一氏の「食通一日一言」(新人物往来社)によると、東軒は浮気したことがあり、益軒は詫び状を書かせ、許したと言う。
何とも益軒先生らしい行為である。
その益軒も、夫人の死後一年を待たずに鬼籍に入ってしまったのだから、東軒がよきパートナーであったには違いない。
参考:養生訓(岩波文庫)
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享年85歳。正徳四年(一七一四年)の出来事であった。
もともと病弱であった益軒は、自らの体験から、短命と思われる人も養生さえよく行えば長く生きられると主張した。
その考えを纏めたのが有名な『養生訓』である。
夫人である東軒に先立たれた益軒、84歳のときの著作である。
『養生訓』は「接して漏らさず」の言葉だけが独り歩きして、なんだか性生活の指南書のように思われている節があるが、益軒の著述は食べ物から、呼吸法、気の持ち方など多岐に分かれていて、性に関する部分はほんの一部である。
でも、少し気になるので、「接して漏らさず」の項を拾い読みしてみる。
四十以上の人は、交接のみしばしばにして、精気をば泄(もら)すべからず。四十以後は、腎気やうやく衰る故、泄さざれども、壮年のごとく、精気動かずして滞らず。此法行ひやすし。この法を行へば、泄さずして情慾はとげやすし。然れば、是気をめぐらし、精気をたもつ良法なるべし
「漏らさなければ」どんどん性行為を行ってよい、と言っている訳ではなく、
年若き時より、男女の慾ふかくして、精気を多くへらしたる人は、生れ付さかんなれ共、下部の元気すくなくなり、五臓の根本よはくして、必短命なり。つゝしむべし。
性欲は、なるべく慎んだほうがよいと忠告し、回数についても言及している。
人、年二十者は四日に一たび泄す。三十者は八日に一たび泄す。四十者は十六日に一泄す。五十者は二十日に一泄す。六十者は精をとぢてもらさず。もし体力さかんならば、一月に一たび泄す。気力すぐれて盛なる人、慾念をおさへ、こらへて、久しく泄さざれば、腫物を生ず。六十を過て慾念おこらずば、とぢてもらすべからず。わかくさかんなる人も、もしよく忍んで、一月に二度もらして、慾念おこらずば長生なるべし
よくよく読んでみると、こんな内容である。
医学的に正しいのかどうか分からないが、他の記述では現代にも通じるような部分も多い。
()内の宛先は、筆者記入。
(飲兵衛諸氏へ)
酒を多くのんで、飯をすくなく食ふ人は、命短し。
(怒髪仙人へ)
怒の後、早すべからず。食後、怒るべからず。憂ひて食すべからず。食して憂ふべからず。
(食いしんぼさんへ)
人生日々に飲食せざる事なし。常につゝしみて欲をこらへざれば、過やすくして病を生ず。
(逆境にある人へ)
人をうらみ、いかり、身をうれひなげきて、心をくるしめ、楽しまずして、むなしく過ぬるは、愚かなりと云べし。たとひ家まどしく、幸なくしても、うへて死ぬとも、死ぬる時までは、楽しみて過すべし。貧しきとて、人にむさぼりもとめ、不義にして命をおしむべからず。
益軒が22歳年下の東軒と結婚したのは39歳の時。
東軒は儒学、漢詩などに優れ、夫の著述をよく助けたと言うが、益軒より一年早く62歳で死去。
原典が分からないので詳しいことは分からないが、清水桂一氏の「食通一日一言」(新人物往来社)によると、東軒は浮気したことがあり、益軒は詫び状を書かせ、許したと言う。
何とも益軒先生らしい行為である。
その益軒も、夫人の死後一年を待たずに鬼籍に入ってしまったのだから、東軒がよきパートナーであったには違いない。
参考:養生訓(岩波文庫)
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