「兄貴、やっぱりでござんした」
岩徳が貞一の長屋に息切らせて駆け込んできたのは夕方近くになってからのことだった。
「やっぱりってどのこった?」
貞一は、桶から水を汲んで、岩徳に渡した。
「かたじけねえ」
岩徳は、貰った水を一気に飲み干すと、
「船頭の件でさあ」
と、続けた。
「まあ、座れ。それで何が分かった?」
貞一は土間に岩徳を座らせた。
「はっきりとは言えねえんですが、あん野郎が何か隠し事をしていることは間違いございやせん」
二人が話しているのは、河童騒動があった日、舟の上からなにやら賑やかにしていた船頭のことである。
「それじゃ、乗せていた客のことも話さねえんだな」
「あいつが堅気でなかったら、締め付けてでもなんとしてでも吐かせてやるんだが、まっとうな人間相手に拳もあげられねえ」
「それでも、その船頭・・・」
「松次郎といいやす」
岩徳が付け加えた。
「その松次郎は、しばらくは羽振りがよかったんじゃねえか」
「おっしゃる通りで。吉原通いを続けていたらしいです」
「今はどうだ?」
「最近はなりを潜めたってことです」
「そうすると、たいした金じゃねえな」
「ちょっとした秘密のために松次郎は商人風の旦那に小金を握らされたってことになりやすね」
「あいつら、なにを隠していやがるんだ。まさか河童を捕まえたわけでもあるまいし。どちらにしろ、その旦那の正体を暴くのが先決だ」
「兄貴の話とは直接関係しねえが、あの路孝はまだまだ河童に未練一杯らしいですぜ。また、見物に行って、是非自分の目で河童の姿を確かめると息まいているとのことです」
「三代目はこの前、鬼の平蔵に一泡吹かせたらしいじゃねえか。それが目的で三代目指揮の下、この狂言が組まれたのかもと考えていたが、その線は薄いな」
貞一は、すすだらけの天井を見上げ、
「どちらにせよ、あの旦那が何を隠しているかや。河童の出没と旦那の利害を探れば自ずと分かってくるはずや」
と上方訛りを含ませながら、独り言のように呟いた。
岩徳が貞一の長屋に息切らせて駆け込んできたのは夕方近くになってからのことだった。
「やっぱりってどのこった?」
貞一は、桶から水を汲んで、岩徳に渡した。
「かたじけねえ」
岩徳は、貰った水を一気に飲み干すと、
「船頭の件でさあ」
と、続けた。
「まあ、座れ。それで何が分かった?」
貞一は土間に岩徳を座らせた。
「はっきりとは言えねえんですが、あん野郎が何か隠し事をしていることは間違いございやせん」
二人が話しているのは、河童騒動があった日、舟の上からなにやら賑やかにしていた船頭のことである。
「それじゃ、乗せていた客のことも話さねえんだな」
「あいつが堅気でなかったら、締め付けてでもなんとしてでも吐かせてやるんだが、まっとうな人間相手に拳もあげられねえ」
「それでも、その船頭・・・」
「松次郎といいやす」
岩徳が付け加えた。
「その松次郎は、しばらくは羽振りがよかったんじゃねえか」
「おっしゃる通りで。吉原通いを続けていたらしいです」
「今はどうだ?」
「最近はなりを潜めたってことです」
「そうすると、たいした金じゃねえな」
「ちょっとした秘密のために松次郎は商人風の旦那に小金を握らされたってことになりやすね」
「あいつら、なにを隠していやがるんだ。まさか河童を捕まえたわけでもあるまいし。どちらにしろ、その旦那の正体を暴くのが先決だ」
「兄貴の話とは直接関係しねえが、あの路孝はまだまだ河童に未練一杯らしいですぜ。また、見物に行って、是非自分の目で河童の姿を確かめると息まいているとのことです」
「三代目はこの前、鬼の平蔵に一泡吹かせたらしいじゃねえか。それが目的で三代目指揮の下、この狂言が組まれたのかもと考えていたが、その線は薄いな」
貞一は、すすだらけの天井を見上げ、
「どちらにせよ、あの旦那が何を隠しているかや。河童の出没と旦那の利害を探れば自ずと分かってくるはずや」
と上方訛りを含ませながら、独り言のように呟いた。
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