5歳児餓死事件「ママ友」に懲役15年を求刑
検察「母親は指示に従うしかない状況」
「子供を守るために指示に従うしかない状況を作り、強い心理的影響下に置いていた」 福岡県篠栗町で2020年、5歳の男の子を餓死させたとして、母親とともに起訴された「ママ友」の女の裁判員裁判。8日の論告求刑公判で、検察側は「ママ友」に懲役15年を求刑した。一方、弁護側は改めて無罪を主張し、裁判は結審した。
篠栗町の無職・赤堀恵美子被告(49)は、ママ友だった碇利恵被告(40)と共謀し、碇被告の三男・翔士郎ちゃんに十分な食事を与えず餓死させたとして、保護責任者遺棄致死の罪に問われている。このほか、碇被告から生活費など計約200万円をだまし取ったなどとして、詐欺や窃盗の罪でも起訴された。 今年6月に開かれた碇被告の裁判では、赤堀被告からの実質的な「支配」があったことが認定された上で、「母親の碇被告にも翔士郎ちゃんを助ける行動は期待できた」などとして、懲役5年の判決が言い渡されている(碇被告は判決不服で控訴中)。 今回の裁判では、赤堀被告による碇家の食事の制限を含めた精神的な支配があったのかが最大の争点となり、証人として出廷した碇被告と、赤堀被告は、互いに名前を呼び捨てにし、真っ向から異なる主張を展開した。
碇被告の証言に幾度となく出てきたのが「ボス」の存在。碇被告は「暴力団組員の元妻で、トラブル沙汰を裁判で解決している女性」と聞いていたものの、実際に面識はなく、”仲介役”を名乗る赤堀被告を通じてのやりとりだったという。 「夫が浮気している」という赤堀被告の”ウソ”を信じた碇被告は、調査費用や裁判費用を「ボス」に支払うため、収入のほぼすべてを赤堀被告に渡していたと説明。「私と子供の間には、赤堀とボスという壁があった」とも述べ、赤堀被告による”支配”の実態を証言した。 一方、赤堀被告は、「ボスは男性だ」と反論。自分が話したわけではなく、あくまで碇被告が持ち出した、というのだ。赤堀被告や弁護側の説明によると、「ボス」は、碇被告と一緒になりたいと思っている男性で、名前も教えてもらえず、会ったことはなかった。また、碇被告との間で厳しい生活ルールを定め、碇被告から食事制限などに協力するよう頼まれたこともあるという。赤堀被告は、碇被告から元夫の浮気調査費などの金は「一切受け取っていない」と述べた。
わずか5歳で極度の栄養失調に陥り、命を落とした翔士郎ちゃん。亡くなるまでの1週間、翔士郎ちゃんはパンやおかゆなどのわずかな食事しか摂っておらず、何も口にしない日も3日あったという。この食生活について、碇被告は前述の「ボス」の指示を引き合いに出しながらこう証言した。 <碇利恵被告の証言> 「赤堀からボスの話として、元夫との慰謝料請求裁判で勝つために質素な生活をしないといけないと聞いていました」 「赤堀から家族の食事量を制限するよう指示され、ボスが家の中をカメラで監視していると言われていました」 「赤堀が提供してくれる食事はだんだん減っていき、翔士郎は、留守番できない、勝手に食べ物を口にした、などの罰として何度も食事を抜かれました」 これに対して赤堀被告は、碇家に食事を提供していた事実は認めた上で、「自身の指示」を否定。食事制限などは母親が自分で決めた”しつけのルール”だと碇被告の主張を一蹴した。碇被告から協力を求められたから、あくまで親切心として応じていたとする説明を繰り返したのだ。 <赤堀被告の証言> (弁護人)「碇さんは、『翔士郎が留守番できないなどの罰としてクローゼットに閉じ込められたり、食事を抜いたりされた』と言っていましたね。あなたが碇さんに指示しましたか?」 (赤堀被告)「していません」 (弁護人)「どうして碇さんはそういうことをしたのですか?」 (赤堀被告)「私が思うには、碇が『子供のしつけをちゃんとしないといけない』と言っていたので、そうしていたのかなと思いました」
翔士郎ちゃんは、亡くなった4月18日の夜、激しい頭痛などを訴え、ぐったりした状態になった。このときの様子について碇被告は、「翔士郎は目の焦点が合っておらず、異常だと思った。翔士郎を見た赤堀被告は『大丈夫』と言って帰宅した」と証言。赤堀被告に助けを求めたことを明らかにした。赤堀被告の許可なしに救急車を呼ぶことができなかった、つまり、赤堀被告に”支配”されたことで、翔士郎を助けることができなかったことを強調した形だ。 また、赤堀被告がやせ細る翔士郎ちゃんの状態を認識していたことを涙ながらに訴えた。 <碇被告の証言> 「赤堀は毎日家に来て、翔士郎を自分のところに呼んで『翔!お腹を見せて』と。赤堀は『ほらお前が言うことを聞かないから、ご飯を抜かれるから、こんなにお腹が引っ込んでいるだろ。こうなったのはママのせい』と言っていました」
対する赤堀被告もまた、翔士郎ちゃんがやせ細る様子を見て「ショックだった」と涙ながらに語った。しかし、碇被告に対し、食べ物を与えるよう諭しても聞き入れてくれなかったなどという主張を展開し、翔士郎ちゃんが亡くなった責任が自分にはないことを強調した。 <赤堀被告の証言> (赤堀)「(死亡直前の)翔士郎は、眠くて寝ていると思いました」「碇に昼寝をしたのか聞いたら『してない』って言うので」 (弁護人)「病院につれて行くとか、救急車を呼ぶとか言ってあげようかなと思わなかった?」 (赤堀被告)「そのときは思わなかったです」 (弁護人)「どうして?」 (赤堀被告)「以前に(翔士郎ちゃんを)病院に連れて行ったらと何度も言ったけど、碇が全然行動に移さなかったので、言うのをやめました」 (弁護人)「言うのが無駄かなと思って言わなかったと?」 (赤堀被告)「はい」 ~~~~~~~~~~~~~ (赤堀被告)「碇に『何しているの食べ物をあげていたのに』と伝えても碇は無言でした」 (検察官)「あなたの話を前提にすると、碇さんに世話をしてあげたのに、碇さんはあなたをおとしめようとしてると。碇さんはどうしてうそをつくと思いますか?」 (赤堀被告)「それはわかりません。私のせいにしたいんじゃないですか」 (検察官)「どうしてあなたのせいにした?」 (赤堀被告)「わかんないです」
法廷では、双方の主張に裁判員たちもしっかりと耳を傾け、メモに書き起こしたり、時にはハンカチで目をおさえたりする裁判員の姿も見られた。どちらが本当のことを言っているのか、にわかに判断するのは難しいようにも思える。 一方で、両被告の間では、何百通、何千通もの「ライン(無料通信アプリ)」のやり取りが交わされていた。検察側は、碇被告の証言に加えて、ラインが赤堀被告からの「支配」などを裏付ける重要な証拠とみている。赤堀被告の被告人質問では、検察側と弁護側の双方からラインに関する質問も飛んだ。 <赤堀被告の証言> (検察官)「あなたは碇さんに対してラインで『(翔士郎ちゃんが)死ぬんやない』と送っていますね。これはどういう気持ちだったの?」 (赤堀被告)「その前から頭が痛いと言ってる話を聞いていたので、コロナにかかったら死ぬんやないかなと思って送りました」 (弁護人)「現実のラインをみると食事の制限などをあなたが指示しているように見えるが?」 (赤堀被告)「ラインの内容は碇と打ち合わせをして、送ってくれって言われていました」 (弁護人)「どうして碇さんはそのようなことをあなたに頼む?」 (赤堀被告)「(碇被告の)子供たちに私のことを怒られたら怖いと植え付けていたみたいで、言いつけを守らせるためにそういうラインを送ってと言われていました」
8日の裁判は、福岡地裁で午前10時に開廷した。赤堀被告の元夫は、翔士郎ちゃんがあばらが見えるほど痩せていたこと、消防に通報して救急搬送されたときの状況などを証言した。また、碇被告が赤堀被告に助けを求めてきたことについて、「普通は病院なり身内なりに連絡すると思う。おかしいですよね。普通に考えたら」と述べた。さらに、赤堀被告が碇被告を支配していたかどうか、弁護人に問われると、「あり得ないと思っています。(支配などは)考えたこともない。碇が家に来た時も普通の対等な友達にしか見えなかった」と話した。 続く論告求刑で検察側は、「赤堀被告は碇被告が子供を守るために指示に従うしかない状況を作り、碇被告を強い心理的影響下に置いていた」「碇被告と意思を通じて保護責任者遺棄致死の犯罪を遂行したのは明らか」「赤堀被告の弁解は不合理で信用できない」と述べた。 さらに検察側は「多額の金をだましとるという金銭欲の表れであり、支配欲があった。自己の欲望を満たすための身勝手な犯行で、酌量の余地はなく強く非難」「悪質極まりない。酷い仕打ちとしかいえない」「被害者は理不尽な罰をうけ、暴力を受け、勝手に食べ物を食べるとどろぼうと言われた。その苦しみや悲しみは察するに余りある」として、懲役15年を求刑した。 その上で、「被告人がいなければ事件は起きなかった。その刑事責任は母親をはるかに上回る」と説明した。
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