歳月や銀河賑はひ始めたり 衣川次郎
今や日本の夜には光が溢れている。
夜の地球を撮った衛星写真では、
ネオンの明りで日本列島の輪郭がくっきりと浮かび上がる。
夜が明るくなるにつれ、
銀河もすっかり見えなくなった。
防犯や経済のために、日本人は尊い自然を犠牲にしたのだ。
作者はそんな日本の姿を見つめ続けてきたのだろう。
日進月歩で都市化する日本。
それにつれて淡くなる銀河。
とうとう銀河の姿も完全に失われてしまったかと思われた時、
改めて頭上を見上げて息を飲んだ。
そこには、かつてのようにまばゆい銀河が、
昔と変わらない姿で広がっていたのである
しかし、実は作者は知っていた。
それが本当の銀河の姿ではないことを。
歳月は作者自身の体を老化させた。
昔ははっきりと見えた目も、
今ではうっすらと霞掛かって来た。
月を見れば、月が二重に見える。
当然、夜空に浮かぶ星の数も、全て二重に見えているはずだ。
作者は今、実際の銀河を眺めながら、
実際よりもまぶしい銀河を見ている。
しかし作者は悲しんではいない。むしろ感謝している。
歳月が、我が身の老化と引き換えに、
誰にも見ることのできない、
荘厳な自然の姿を作者の目に映さしめたからだ。
参照 https://kakuyomu.jp/ 矢口晃