目には青葉尾張きしめん鰹だし 三宅やよい
思わず破顔した読者も多いだろう。もちろん「目には青葉山時鳥初鰹」(山口素堂)のもじりだ。たしかに、尾張の名物は「きしめん」に「鰹だし」。もっと他にもあるのだろうが、土地に馴染みのない私には浮かんでこない。編集者だったころ、有名な「花かつを」メーカーを取材したことがある。大勢のおばさんたちが機械で削られた「かつを」を、手作業で小売り用の袋に詰めていた。立つたびに、踏んづけていた。その部屋の写真撮影だけ、断られた。いまは、全工程がオートメーション化しているはずだ。この句の面白さは「きしめん」で胸を張り、「鰹だし」でちょっと引いている感じのするところ。そこに「だし」の味が利いている。こういう句を読むにつけ、東京(江戸)には名物がないなと痛感する。お土産にも困る。まさか「火事と喧嘩」を持っていくわけにもいかない。で、素直にギブ・アップしておけばよいものを、なかには悔し紛れに、こんな啖呵を切る奴までいるのだから困ったものだ。「津國の何五両せんさくら鯛」(宝井其角)。「津國(つのくに)」の「さくら鯛」が五両もするなんぞはちゃんちゃらおかしい。ケッ、そんなもの江戸っ子が食ってられるかよ。と、威勢だけはよいのだけれど、食いたい一心がハナからバレている。SIGH……。『玩具帳』(2000)所収。(清水哲男)
【初鰹】 はつがつお(・・ヲ)
サバ科の魚。毎年黒潮に乗って北上し、遠州灘を越えて、若葉のころ房総や伊豆半島に現れる。このころ最初に捕れる鰹を初鰹と呼ぶ。初物好きで、生きのよい江戸っ子気質に合っていたため、「勝魚」とも書かれ、江戸時代には特に珍重された。《鰹:夏》
例句 作者
断つほどの酒にはあらず初鰹 鷹羽狩行
鎌倉を生て出けむ初鰹 芭蕉
目には青葉山郭公初鰹 素堂
初鰹観世太夫がはし居かな 蕪村
雨ざつと来てさつと去り初鰹 太田寛郎
初鰹糶の氷片とばしけり 皆川盤水