裏店やたんすの上の雛祭り 高井几菫
たんすの上の雛祭
昭和の庶民だったらだれもが頷くだろう景である
裏店を裏長屋と置き換えれば句意はより明確だが
そこはひとひねりなのだろう
(小林たけし)
裏店(うらだな)の「店」は家屋の意味。落語などでお馴染みの裏通りの小さな住居である。段飾りなど飾るスペースもなく、経済的にもそんな余裕はない。したがって、小さな一対の雛がたんすの上に置かれているだけの、質素な雛祭りだ。でも、作者は「これでいいではないか、立派なものだ」と、貧しい庶民の親心を称揚している。現代であれば、さしずめ「テレビの上の雛祭り」といったところだ。すなわち、かつての我が家の雛祭り。学習雑誌の付録を組み立てては、毎年飾っていた。作者の几菫(きとう)は十八世紀の京の人。蕪村門。(清水哲男)
【雛祭】 ひなまつり
◇「雛」 ◇「雛遊」 ◇「ひいな」 ◇「初雛」 ◇「内裏雛」(だいりびな) ◇「土雛」 ◇「紙雛」 ◇「雛飾る」 ◇「雛菓子」 ◇「雛の灯」 ◇「雛の客」 ◇「雛の宴」 ◇「雛の宿」
3月3日、桃の節句。女児のある家で幸福・成長を祈って雛壇を設けて雛人形を飾り、調度品を具え、菱餅・白酒・桃の花などを供える祭。雛遊び。雛人形。雛の燈。ひひな。
例句 作者
雛の前今誰もゐず坐り見る 星野立子
嫁せし子の雛が眠れる天袋 小岩井清三
白き粥かがやく雛の日とおもふ 桂 信子
旅人ののぞきてゆける雛かな 久保田万太郎
雛の間をかくれんばうの鬼覗く 行方克己
立雛やまとの月ののぼりきし 黒田杏子
折りあげて一つは淋し紙雛 三橋鷹女
天平のをとめぞ立てる雛かな 水原秋櫻子
夜々おそくもどりて今宵雛あらぬ 大島民郎
航海を終へ来し父も雛の座に 大郷耕花