女番長よき妻となり軒氷柱 大木あまり
世間にはよくある話だ。派手好みで男まさりで、その上に何事につけても反抗的ときている。将来ロクなものにはならないと、近所でも折り紙つきの娘が、結婚と同時にぴたりと大人しくなってしまった。噂では、人が変わったように「いい奥さん」になっているという。作者も、娘の過去は知っているので気がかりだった。で、ある日、たまたまその娘の嫁ぎ先の家の前を通りかかると、小さな軒先に氷柱(つらら)がさがっていた。もちろん何の変哲もない氷柱なのだが、その変哲の無さが娘の「よき妻」ぶりを象徴していると思われたのである。ホッとした気分の作者は、そこで微笑を浮かべたかもしれない。よくある話には違いないが、軒先のただの氷柱に「平凡であることの幸福」を見た作者の感受性は、さすがに柔らかく素晴らしいと思えた。『雲の塔』(1993)所収。(清水哲男)
【氷柱】 つらら
◇「垂氷」(たるひ)
雨雪などの水の滴りが凍って棒のように垂れ下がったもの。雪国では屋根から地面に届くほどの大氷柱を見ることも稀ではない。山中の樹枝や崖などでもよく見ることが出来る。寒さの象徴でもある氷柱には、どこか明るいイメージが付いている。
例句 作者
世の中を遊びごころや氷柱折る 高浜虚子
一茎の棘の先よりつららかな 小島千架子
滴まで青し吉野の軒氷柱 大島雄作
星空へ身をのり出してつらら折る 市掘玉宗
夕焼けてなほそだつなる氷柱かな 中村汀女
みちのくの町はいぶせき氷柱かな 山口青邨
一本の太き氷柱の茜かな 長谷川 櫂
日の氷柱海近くても遠くても 長谷川双魚
朝日影さすや氷柱の水車 鬼貫
ロシア見ゆ洋酒につらら折り入れて 平井さち子
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