竹とんぼ

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熱帯魚のひげを見てゐる応接間 清水良郎

2018-07-25 | 今日の季語
熱帯魚のひげを見てゐる応接間 清水良郎



 「俳句」二〇一三年十一月号より。
第五十九回角川俳句賞受賞五十句「風のにほひ」のうちの一句。

 作者は応接間に通された。
しかし、目当ての人物はなかなか姿を見せない。
しばらくは部屋の中央の革張りのソファに、背筋を伸ばし、
浅めに腰を掛けて待っていた作者だが、
その時間の長さにいよいよ緊張の糸もゆるみ、
背筋の力も抜けてしまった。
部屋の中の調度を何気なく眺めていると、
棚の上に置かれた一つの水槽に目が留まった。
近づいて見ると名も知らぬ大小数種の熱帯魚が静かに中を泳いでいる。
最初はその華美な色彩や模様に目を奪われたが、
作者の興味は次第にその魚らしい細部に注がれる。
常に靡く胸鰭、透けるほど薄い尾鰭、
細かなかすを含んでは吐き出す口。
そして口の両端から無邪気に伸びた何本かの髭。
それまで、熱帯魚とは
ただ観賞用に美しく生まれついたばかりと考えていた作者にとっては、
熱帯魚にも、やはり近所の川に泳いでいる魚と同様、
生きるための実用的な器官が備わっていたという発見が新鮮だったのだろうか。
食い入るように水槽の中を覗きこむ作者。
そこへ、訪問先の人物が突然現れた時の、
作者の慌てぶりを想像してみるのもまた楽しい。


参照 https://kakuyomu.jp/works/1177354054880622271/episodes/1177354054880622272

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