海鵜憂し光まみれであるがゆえ 高野ムツオ
鵜は全身光沢のある黒色で、嘴の先がかぎ状になっている。潜水が上手で魚を捕食し水から上がると翼を広げて乾かす習性がある。主に川鵜と海鵜が知られる。川鵜は東京上野の不忍池でよく見られる。海鵜の方は長良川の鵜飼いで有名である。掲句の海鵜はきらきらと光が眩しい岩礁に体を曝して羽を休めているのであろう。波の飛沫の光りの中に黒い体を沈めている。黒い体は黒い闇に抱かれた時心休まる。そんな我身が今白日の下に晒されて、光まみれとなり、ふいと憂鬱に襲われている。他に<わが恋は永久に中古や昼の虫><死際にとっておきたき春の雨><大志なら芋煮を囲み語るべし>など。『満の翅』(2013)所収。(藤嶋 務)
【鵜飼】 うかい(ウカヒ)
◇「鵜匠」(うしょう) ◇「鵜遣」(うつかい) ◇「鵜舟」(うぶね) ◇「鵜籠」(うかご) ◇「荒鵜」(あらう) ◇「疲鵜」(つかれう) ◇「鵜篝」(うかがり) ◇「鵜飼火」(うかいび) ◇「鵜松明」(うたいまつ) ◇「鵜縄」(うなわ)
鵜を飼い馴らして鮎を獲る漁法で、古くは万葉の時代から行われていた。5月11日から10月12日まで、殆ど毎夜行われる。美濃の長良川の鵜飼は特に名高い。
例句 作者
疲れ鵜の籠しつとりと地を濡らす 加藤三七子
血まなこの荒鵜に爆ぜる篝かな 高井北杜
短夜の川風に干す鵜装束 石鍋みさ代
月光のしたたりかかる鵜籠かな 飯田蛇笏
鵜篝の火の弾けつつ近づき来 清崎敏郎
おもしろうてやがてかなしき鵜舟かな 芭蕉
鵜飼果つ風に残りし火の匂ひ 坂手美保
夜やいつの長良の鵜舟曾て見し 蕪村
遊舟に灯が点く鵜川暮れざるに 松井利彦
畳上げ昼を舫ひし鵜飼船 河野頼人