日本初のカラー映画「カルメン故郷に帰る」をDVDで観る。終戦後間もない1951年(昭和26年)の作品。浅間山麓の大自然の中の小さな村が舞台だ。人物がこの大自然の中から登場するという手法が斬新だ。交通手段に馬車や無蓋貨車が出てくるあたりが隔世の感を感じるが、そこで、高峰秀子らの派手な衣装・ダンス・歌が展開されるアンバランスが象徴的だ。 そのアンバランスに木下恵介監督は、軽佻浮薄な世相と敗戦にもめげない民衆のエネルギーとをコメディータッチで描いていく。
父娘・姉妹・夫婦の情愛をさりげなく入れているのも木下監督らしい。双璧の黒澤明の骨太で男らしい手法とが対照的ですらある。佐野周二・佐田啓二・望月優子・笠智衆らの脇役も懐かしい。木下門下生の小林正樹・松山善三が助監督だった。山田洋二の「男はつらいよ」のヒントがここにあったのではないかと思うほどのコメディーだった。
撮影現場の浅間牧場には「カルメンの木」が観光スポットとなっている。カルメンはこの樹の下で馬に蹴られたという設定だ。それほどに、じゃじゃ馬のカルメンは自らはダンスの芸術家と思い込んでいるが、まわりはストリッパーとして見ている。この違和感が全編に貫徹されている。このちぐはぐさが監督の狙いでもあるし、時代をシニカルにえぐる意味もある。出征した元教師が失明した姿にも戦争の傷跡を入れ込んでいるのもさりげない。