だから、こうだな
こんな風に
思い出せない
と、思ってしまう
それは、違うんだな
おまえの思いには
思い出は、断片
取り散らかり
無造作に、ひしめき
重なり合っている
断片、脈絡はない
いや、あるんだけど
脈絡は、絡まり合い
もつれ合っている
だから、その断片から
思い出を、ほぐして
思い出をひと綴りにする
それが出来ないんだな
例えば、こいぬの思い出
息子が、抱っこして
もらってきたこいぬ
まっしろに、輝く毛並み
いや、違うな
あれは、秋田の雑種
息子が、拾って来た
でも、二匹は無理だ
息子に、内緒で
おまえは、捨てに行く
いい大人が
この上のない、非常識
いや、子どもだった
おまえは、抱きしめて
夕日に向かって、歩いていた
土橋を渡って川向こう
あの空き地に…
いや、違うよ
あのこいぬは
ずっと、生きて
おとなになった息子に
しっかり、抱きしめられていた
最期の瞬間迄
見つめるおまえは
悲しいけど
でも、ほんのり温かい
こいぬは、おとなになり
おじいちゃんになり
おばあちゃんになった
ずっと家族で
ずっと幸せだった
そうだったんだよな
記憶は、確かに
断片になった
無造作な、取り散らかり
もつれ合って、解れない
でも、そのままでも
しあわせなら、いいよ
きっと、ほぐしても
今更、罪は
償えない、だから
これで、良い…