よく覚えている
幼い頃の記憶
初めて知った、台風
その名前を
よく、思い返して見れば
実家が、土地を買い
海辺の高台に、新築して
引っ越したのが
その年の春だった
GWの頃か
おまえは
海岸の幼稚園に
5月から
年長さんで、中途入園
いつまでも、馴染めずに
かあさんが、苦労して
毎朝、自転車で
送ってくれていた頃だ
新しい家は
高台でも
緩やかな坂の際にあった
崖沿いではない
緩やかに、海へとうねって行く
その海岸段丘の高台だ
だから、崖崩れとか
そんな心配はない
ただ、緩やかに降る斜面は
まだ、まるまる空き地だった
当然、そうなると
吹き上がって来る海風を
遮るものがない
ただ、それから
年々、緩やかな斜面には
家が建っていった
随分と風当たりは
穏やかになっていった
ただ、あの最初の年は
特に、海風に直撃されていた
そこへ、あの巨大台風だ
新居での初めての台風
真夜中に、とうさんが
南側の雨戸全部に
斜交いをした
幼いおまえも含めて
家族六人、六畳の居間
眠れなかった
停電はした
食卓には、一本の蝋燭
風雨が凄くて
雨戸を、激しく叩いた
斜交いがあっても
家ごと、吹き飛ぶか
とうさんが、たまらず
雨戸を抑えていた記憶
確かに、歴史に残る巨大台風
その情報は、入っていた
でも、ふるさとに来た時は
少し、衰えていたはず
それなのに
鮮烈な恐怖の記憶
それには、確かに
引っ越したばかりの
実家の事情も、加わっていた
そうなんだと思う
何か、不思議だよね
大昔の話を
今、思い起こして
こうして、考えてみると
初めて、気づくこともある
「伊勢湾台風」の記憶…