まず、最初の頃、お世話になった先生は、かなりのおじいちゃんの先生だった。最初の狂犬病の注射は、最初の飼い主の空手少年団の父母会の会長さんに紹介された、当時、町で唯一の動物病院で受けた。ところが、この獣医さんが、かなり頼りなかったらしい。急速成長中だったしろを、上手く扱えず、なかなか注射は出来ないは、しろには、噛みかれそうになるはで、大騒ぎになってしまったらしい。
それで、子どものスポーツ少年団つながりで、地元にネットワークを持った妻が、聞き込んできたのが、歩いて行ける距離の地元の古くからの獣医さん。看板などは出していないが、自宅の庭に、治療用の小屋があって、犬、猫、小動物を、診てくれるらしい。ただ、獣医さんは、本来は、大型の家畜などを、主に診る人なのだと言う。
何しろ、我が家のある地域には、空港の用地となった御料牧場など、大牧場が沢山あったH台地が、隣接している。日本の牧畜の起こりのような地区でもある。そんな牧場や、地元畜産農家などを相手に仕事をしてきたらしい。それが、高齢になって、セミリタイア気味で、その分、宅造で流入してきた新住民のペットなどを、診てくれているのだと言う。
最初は、フィラリアの薬を、貰いに行ったのだと思う。春から、秋まで、約半年。飲み薬.月一回程度だったと記憶している。何しろ、犬にとって、フィラリアは、当時、最も怖い病気だった。寄生虫が、動脈に入り込み、血行障害を起こして、死に至ることとなる。
自分の子どもの頃は、狂犬病が、一番怖い病気だった。噛まれることで、人間にも感染して、人間も死に至る危険性がある。ただ、その当時に既に、犬のワクチンにより、克服されつつあった。たから、もう、その頃は、とにかく、フィラリアになっていた。しかし、実際に、困ったのは、フィラリアではない。
フィラリアは、だいぶん経ってから、おじいちゃん先生が、引退して、近所に出来た動物病院に受診するようになってから、血液検査で、幼虫が見つかって、毎日飲み薬を飲むなど、ちょっと苦労はした。しかし、実際に、困ったのは、真ダニと、ノミと、中耳炎だった。
とにかく、庭で飼っていて、田園地帯を、散歩するから、ダニやノミを完全に防ぐのは、難しい。ノミは、人間にも取り付いて、刺してくれるから、厄介だ。今時、人間同士で、ノミを移されることなどまず有り得ない。だから、今は、犬や猫から、うつされることになる。しろは、最初、室内で飼ってしまったから、どうしても、隙をみて、部屋に上がりたがることになる。すると、部屋に、ノミを振り撒いてくれる。そんな酷いことには、ならなかったが、ノミに刺されたとしか思えない時はあった。
多分、かなり取りつかれたらしくて、皮膚病になってしまったことがあった。その時に、新しい先生から、ダニの分と一緒に、飲み薬を処方して頂いてからは、すっかり取りつかれなくなったが。
中耳炎は、結構大変だった。自分は、会社ばっかりで、無頓着だったが、妻は、結構大変だったらしい。痛がるし、耳だれもあったらしい。これも、何か、寄生する虫などが、原因だったのだろう。何しろ、毎日の散歩で、田んぼの畦道で、そんな寄生虫の宝庫にしか思えない草むらに、度々突っ込んでいくのだから、どうしようもない。耳に直接、点滴するような薬を貰って、良くはなったが、時々には、再発するようだった。ただ、そんな時は、妻が、薬を耳に刺すだけではなく、まったりと耳掃除をしていた。二人の息子が、すっかり成長してしまった妻にとって、唯一残された母子の幸せな時間と言う感じがした。それと、しろを抱いて貰ってきた次男が、幼い頃に、悪性の中耳炎を、患っていた。しろを貰ってきた直後に手術して、完治していたが、兄弟は似るんだね、とか、家族で笑い合ったのも、ちょっとした思い出だ。
しかし、何と言っても、困ったのが、真ダニ。これも、やはり、散歩で、草むらに突っ込んで、取りつかれたようだ。毛並みの薄いところに、食いつく。それが、血を吸って、あっと言う間に、育ってしまう。ダニなんて、小さいものだと思っていたが、かなり大きくなる。そして、気づいた時には、もうつまみ取るなんてレベルじゃない。しっかりと食い込んでいるから、ニッパーでもなければ、取れない感じ。しかし、もちろん、そんなことをすれば、しろは、ひぃ〜っひぃ〜っ。何か、虐待してるみたいじゃないか⁉︎と言うことで、おじいちゃん先生に、診て貰うしかない。
おじいちゃんは、いつも、ニッパーのような医療器具で、電光石火。さすが!しろは、ひぃ、と言う間もない。取れた!ただ、おじいちゃんは、古い先生だから、飲み薬の処方はなかった。新しい先生になり、夏場に飲み薬を処方されてから、二度と取り付かれなくなった。
ただ、問題は、一才になる前、最初に、おじいちゃん先生のところに連れて行った時だ。悪い事に、前肢の指の間に、取り付かれてしまった。既に、他の場所に食いつかれて、痛がっていた。しかし、受診は、躊躇していた。
ただ、足の指の間は、そうはいかない。満足に前の片肢を、つけなくなってしまった。三本脚で、歩いている。悪い前肢は、空回り。問題は、クルマだった。この状態で、歩かせて連れて行く訳にはいかない。ところが、しろは、クルマが、まったく駄目だった。走り出すと、直ぐに、ぐったり、戻してしまう。これは、死ぬまで、治らなかった。
とにかく、後部座席に、タオルに包んで、子ども二人で、抱いていたのだが。歩いて行く距離で、吐いてしまったと思う。しかし、おじいちゃんの治療は、もちろん、電光石火。脇腹を含めて、二か所なのだが。しろは、足の指の間の、ひぃっ、で、終わってしまった。
馬や牛を、長年相手にしてきたおじいちゃんにとっては、しろなど、ものの数には、ならないらしい。ただ、問題は、この後だった。また、帰りのクルマで、気持ち悪がって、げぇ〜っげぇ〜っは、まあ、仕方がない。
ただ、よっぽど、足の指の間の真ダニは、痛かったのかなあ。それからと言うもの、ふと気づくと、例のびっこを引いている。何なんだ、この犬は?とっくに、治っているよ。ただ、まだ、それも良い。一番、呆れたのは。すっかり、お年寄りのしろ。もう、十年も、経っている。あれっ!まだ、びっこ引いているよ‼︎