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日記、日々の想い 

IQ、自分と、妻と、しろと

 どうして良いのか、分からなかった。何て愚かな飼い主だったんだろう、と。その後も、何度も、思い返したが。多分、ずっと、愚かな飼い主だったかも知れない。色々、何度も、愚かな失敗をしたことが、思い出されてしまう。犬好きの人には、何て可哀想なことをする飼い主なんだろうと、思われたかも知れない。しかし、犬嫌いの人には、低く悲しく、一晩中、呻くような泣き声を聞かされるなんて、悪夢以外のなにものでもないだろう。
 取り敢えず、自分は、会社に行くしかない。昼間は、泣く訳ではない。夜帰ると、妻が色々近所に、探りを入れたらしい。もちろん、変な意味ではなく、しろの夜泣きで、迷惑をかけたのなら、お詫びをしなければいけないと言う思いだ。
 しかし、交流のかなりある道を挟んだ数軒は、しろの泣き声には、気付かなかったらしい。前の奥さんなどは、大きな男の子が二人いるが、どうだったのか聞いてくれたらしい。その結果は、翌日に、妻に教えてくれたと言う。息子さんたちは、夜遅くまで起きているし、道に面したニ階に部屋があるから、聞いている可能性がある。そして、一応、聞こえたようだが、道一本、間にあるし、気にならなかったとのこと。むしろ、貼り紙をされるとか、可哀想だと同情していたと言って貰えたとのこと。そこは、一安心だったが。
 後は、敷地を接する家々だが、こちらの方が、交流があまりない。一番影響のありそうな前の家は、貸し家にしていて、その頃は、空き家だったかも知れない。脇を接する家が、ご主人が、蛍族で、恐らく… と言う話になったが、色々あって、そもそも一番疎遠な隣家だった。
 聞きづらい。近所付き合いのある妻が、聞けないなら、無い自分など、なお聞けなかった。何とかしなければならないが、妙案は、浮かばない。家に戻す選択は、一時的には、無くは無いが、結局、直ぐに、限界が来そうだ。もちろん、父とのトラウマを抱える自分も含めて、誰かに貰ってもらう選択肢だけは、まったく無い。既に、しろは、家族だった。
 もう、何とか、このまま、外で我慢させるしかない。子どもは、無理だから、自分と妻で、時々、様子を見て、何とか、寂しがらせないように、かまってやるくらいしか、思い浮かばない。昨日も、やっていることだが。一晩中。もう、当分寝ないで、昼間仕事で、頑張るしかないのか。だいたい、そんなことして、少し収まっても、かまわなくなれば、また、夜泣きを始めちゃうよな、とか。ただ、方法が、見当たらない。
 結局、その晩も、昨日と同じ繰り返しになったのだが。ただ、時間が経つにつれて、泣か止んでいることも、増えてきた。結局、未明には、夫婦とも寝てしまった。
 翌朝起きると、しろの泣き声は、聞こえない。その日は、二人で、寝不足の眼を擦りながら、階下へ、下りて行った.ああ、やっぱり、泣いているよ。困ったな。でも、自分たちに気付いて、泣き始めたのかな。とか、都合良く解釈すればだが。
 どきどきしながら、自分が、新聞を取りに、玄関を出た。恐る恐る玄関扉を、横目で確認。貼ってない!
取り敢えず、一安心した。ぼうっとした頭で、出勤。疲れ切って、帰宅。妻も、何だか、疲れ切っている。しろは、外だが、子どもと、まだ戯れあっている。さすがに、ちょっと眠そうだ。子犬は、本来、日に16時間は、寝る。あれだけ、一晩中、寝ないで、泣いていたら、眠いだろう。もっとも、自分や子どもが、出掛けている間は、ずっと寝ているらしいが。
 子どもたちが、寝て、さあ、と。
バイバイすると。ひぃ〜っ、ひぃ〜っ。また、始まっちゃったよ。また、徹夜かよ、と思ったが。
しばらくして、寝付いた。妻と二人そろそろと。二階に上がる。
 その晩は、はっと、目が覚めると、やっぱり泣いていた。小さく、低いが。ひぃ〜っ、ひぃ〜っ。二階から、聞こえるんだから、近所にも、聞こえてるよな。やっぱり、だめか。と、思ったが。少し、様子を見る。妻も、目を覚ます。顔を見合わせていると、泣き止んだ。何とかなるかな。二人とも、下りていかないことにした。
 翌朝、下りて行くと。ひぃ〜っ、ひぃーっ。ひとしきり泣いたが。何か、大丈夫そうだ。玄関扉にも、貼り紙はない。きっと、自分たちが、寝た後も、しろは、起きなかったのだろう。良かった。
 その翌日、子どもたちが、まだ起きている間に、しろは、犬小屋で、寝付いてくれた。外の環境に、慣れ始めてくれたのかも知れない。家の中で使っていたタオルや毛布を、敷いてあげていたことも、良かったのだろう。妻の話では、昼間は、犬小屋で寝ていると言う。犬小屋を、自分の家と認識し始めたのだろう。
もう、心配ないかな、と。何しろ、犬は、良く眠る。子犬は、本当は、大抵、寝ているのだ。ガラス戸にしたままだったが、リビングの明かりは、思い切って、豆球だけにしてみた。そのまま、二人は、二階の寝室に、上がった。その晩は、一度も、起こされることは、無かった。そして、二度と起こされることも無かった。家族が寝る頃には、もう、犬小屋で、大好きなタオルや毛布に包まれて、すやすや。考えてみれば、僅か、三日の苦労だった。ひやっとして、ちょっと薄気味悪い近所からの苦情の張り紙は、あったが。
 しろは、もともとは、母犬と、庭で飼われていた犬だった。それを、子犬は外では可哀想とか、勝手で、愚かな人間の思い込みで、かえって、しろを、混乱させてしまっていた。挙句に、室内で飼う自信を無くして、しろが、自分の家と思い込んだ室内から、庭に放り出した。その飼い主の愚かさ故の境遇を、しろは、僅か三日で、自分で乗り越えてくれたのだ。しろは、本当は、賢くて、勇気のある犬だったのかも知れない。
 家族のこころに、今残るしろの面影は、実は、愚かで、臆病で、腹黒く、狡賢い。しろを、飼い始めて、しばらくして、妻が、買ってきた本に、「犬のIQ」と言う本があった。この本を、犬を知ろうと、妻は、結構、愛読していた。その表題の意味は、犬の賢さ、IQは、飼い主の賢さ、IQに比例すると言うものだ。だから、我々家族と言う愚かな飼い主に似て、しろは、愚かな犬になってしまった。こう思い返してきて、本当は、しろは、賢い犬になる資質は、あった。ただ、この愚かな家族と、自分が、あんな情けない犬にしてしまったと思うようにしている。
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