嘘だと思うよ
記憶ってね
都合よく、書き換える
ことが出来ない、おまえ
何でだろうね
きっと、すべてが
重なっているんだと思う
おまえは
とうさんに言われて
こいぬを捨てに行った
この子は
トイレを覚えられない
拾って来たおまえの責任
だから、責任を取りなさい
あの子を捨てて
泣きながら走って逃げた
夕暮れの土手道
生い茂っていた
背高泡立ち草
そして、おとなのおまえ
貰って来たんだだけどね
しろいこいぬは
トイレを覚えてくれない
抱き締めている息子
やがて、ふと気づいて
夜の庭に下ろした
ちょこっちょこっと
済まして戻って来るこいぬ
見上げて、抱っこ
そうだったのかな
あの子も庭でなら…
記憶は、上書きされて
改めて、記憶になった
多分、捨ててしまったこと
痛みの思い出の上書き
そうして、おまえは
息子に言っていたと思う
良いけど、その子はいのち
おまえが、責任を持だないとね
そして、蘇っていた
痛みの思い出
その思い出を
塗り変えられないだろうか
息子は、面倒を見ない
遊ぶばっかりだったけど
おまえは、記憶を
塗り替えようとした
やがて、息子は
おとななったけど
戻って来た我が家で
しっかりと抱き締めていた
おばあちゃんになったこいぬ
最期まで…
記憶は
塗り変わて、いない
付け加わった記憶は
痛みの記憶を
しっかり蘇して
おまえの痛みは痛いまま
ただ、あゝして
息子は、最期まで
拾って来たこいぬ
おばあちゃんを
抱き締めていた
おまえの痛みは
かえって、痛いけど
それは、それ
あゝして、最期まで
息子は、いのちを看取って
哀しみを、全う出来た…
