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「その「正義」があぶない。」小田嶋隆

2012年09月01日 22時49分49秒 | 読書(エッセイ&コラム)

「その「正義」があぶない。」小田嶋隆

この著者の作品を初めて読んだ。
とてもよかった。切れ味最高。
これからも、読んでいこう!って気分。
世の中の出来事についてコメントしてるんだけど、それがすごく的確。
判断、分析、感性、距離感・・・ボールを芯でとらえている感覚。
いくつか文章を紹介する。

P24(東電メルトダウン発表について)
東電が、震災以来、事態を把握していなかったのだとすると、この2カ月の間、われわれは行き先不明のバスに乗っていたことになる。計器はめちゃめちゃで、ドライバーは意識不明のままハンドルの上に突っ伏していたわけだ。
「方向とスピードはわかりませんが、走行中であることは確認済みですのでご安心ください」
と、バスガイドは言う。当然だ。
「飛び降りると怪我をしますよ」
そうかもしれない。でも、乗っていれば、いずれ何かに衝突するんではないのか?
いや、彼らとて、いくらなんでも、ある程度は状況を把握していたはずだ。そう考えるのが自然だ。だって専門家なんだから。ということは、結局、東電および政府の事故対策本部は、事態の収拾をはかりながら、メルトダウン発表のタイミングを推し量っていた。そう考えた方が、多少は安心できる。
でも、それはそれで別の問題が生じる。
この前提だと、東電はウソをついていたことになる。でなくても情報を隠蔽していた、と。これはこれで後味が悪い。われわれは、今後、彼らの発表について、すべて裏読みせねばならなくなる。

P31
思うに「パニック」という言葉の影に隠れて、情報の開示を遅らせてきた面々が恐れていたのは、パニックそのものではない。
彼らが回避せんとしていたのは、何よりも自分が「矢面に立つ」ことだった。だから、どうしてもメルトダウンを公認しないと辻褄が合わなくなるギリギリまで、発表を引き延ばしたのだ。

P34
政府の人間が心配していたのは、株価の暴落だとか、首都圏における消費活動の空洞化とかいった、いずれにしてもカネにかかわる問題だ。
命がけの場面で、あの人たちは、金勘定をしていたわけだ。
で、狼が来るという噂で街が空っぽになるのを恐れて、
「あれは犬ですよ」
という情報を流し続けていたのである。
で、今になって、
「あれは、実は狼でした」
と言いはじめている。
「でも、大丈夫。鎖でつないであるから」
と彼らは言っている。
私は信じない。
あまりにもすべてがくさりきっているから。

P140
(前略)品格は、本来、語るものではない。
評価するものでもない。
ただそれは人が去った後に香気のように漂うものだ。
いずれにせよ、品格について語った者は品格を失う。いま語っている私も含めて。

P206
(前略)調子ぶっこいた若い奴が障子紙に不作法をはたらく湘南ブランド御用達の武勇伝文学や、ビジネスマン向けの新聞に連載された老年不倫情死小説は、ポルノでこそないものの、芸術には届かない。
(ご存じのとおり、「太陽の季節」「失楽園」のこと・・・byたきやん)

【ネット上の紹介】
毎週金曜日に公開されるや否やネットで大議論を巻き起こすコラム「ア・ピース・オブ・警句」。それはまさに数十万人が参加する「オダジマ白熱教室」。原発に、保安院に、なでしこに、石原都知事に、誰もが一言いわなければ気が済まない。眉間にシワを寄せ、鼻の穴をふくらませながら語られる「正義」に水をかけ、時にスベり、時に火だるまになりながらも、前のめりで切り込んでいく男・小田嶋隆の真骨頂ここにあり。
[目次]
1章 原発と正義;2章 サッカーと正義;3章 メディアと正義;4章 相撲と正義;5章 日本人と正義;6章 政治と正義;終章 グレートジョブズによせて