「よろこびの歌」宮下奈都
久しぶりに再読した。
宮下奈都さんというと、「羊と鋼の森」が有名だけど、
私は、こちらの方が好みだ。
御木元玲は、音大附属高校の受験に失敗、普通の高校に通うことになる。
失敗した受験、実力不足への認識、不本意な現状。
心を閉ざした日々の中、合唱コンクールがあり、指揮を任される。
やる気のないクラスメート、しかし、任されると全力を出さずにいられない。
全部で7章あり、各パートで語り手が変わる。
ひとりひとりの思いが吐露され、ポリフォニックな作品となる。
すばらしい!
P208
いやいや引き受けたに違いないのに、御木元さんは途轍もなかった。特別としかいいようのない光を私たちに見せてくれた。彼女にしてみれば、特別なつもりもなかったのかもしれない。指揮者になったことで光が漏れた。そんな感じだった。
級友たちをどうにか引っ張っていくために四苦八苦する彼女は、自分では歌わず、指揮と指導に徹していた。それでも彼女が各パートの出だしや山場を歌って示す、その歌声に触れただけで身体に鳥肌が立つようなことが何度もあった。そういうとき、私は昂揚し、かえってうまく声が出なくなってしまう。光り輝くような声の主を、ただ見つめていることしか出来なかった。
【ネット上の紹介】
著名なヴァイオリニストの娘で、声楽を志す御木元玲は、音大附属高校の受験に失敗、新設女子高の普通科に進む。挫折感から同級生との交わりを拒み、母親へのコンプレックスからも抜け出せない玲。しかし、校内合唱コンクールを機に、頑なだった玲の心に変化が生まれる―。見えない未来に惑う少女たちが、歌をきっかけに心を通わせ、成長する姿を美しく紡ぎ出した傑作。