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「聖書を語る 宗教は震災後の日本を救えるか」中村うさぎ/佐藤優

2012年06月13日 21時30分56秒 | 読書(対談/鼎談)

「聖書を語る 宗教は震災後の日本を救えるか」中村うさぎ/佐藤優

この二人が聖書を語る!
まさに異色対談。いったい共通点があるのか?
・・・実は共通点があるのだ!
佐藤優さんは同志社大学神学部、中村うさぎさんも同じ同志社大学英文科卒業。
(年齢も近い、中村うさぎさんが4回生のとき、佐藤さんは1回生)
二人ともクリスチャンで、中村うさぎさんバプテスト派、佐藤優さんカルヴァン派。
そんなわけで、けっこう深い話が展開する。
いくつか文章を紹介する。

P22
佐藤 マルコ、マタイ、ルカの三つの福音書を「共観福音書」といい、これらは同じ歴史観、同じアプローチによって書かれています。ヨハネによる福音書はまったく別の世界観にもとづくテキストです。これはロシア正教など東方教会に大きな影響を与えました。ドストエフスキーの作品もヨハネによる福音書の影響を強く受けている。それに対して、カトリック、プロテスタントは三つの共観福音書の影響が色濃いのです。
中村 うん、確かにヨハネは毛色が違うね。何しろ、冒頭の文句からして特徴的だよ。「初めに言があった」という有名な出だし。もう、あの出だしで引き込まれちゃう。ヨハネには、そういう魔術的な魅力があるよね。

P42
佐藤 旧約聖書はヘブライ語で、新約聖書はギリシア語です。(中略)
そしてヘブライ語からギリシア語に訳されたときに、けっこうたくさんの誤訳が生じた。典型的なのが処女降誕の「処女」。ヘブライ語では単に「年頃の女」だったのに、ギリシアには処女神であるアルテミス信仰があるものだから「処女」と訳しちゃった。
中村 「処女マリア」は誤訳だったんだ!
佐藤 そう。それが教義として定着してしまったわけです。マリアはイエスを産む前も処女だけど、産まれた後も処女である、と。

P169
中村 今でいえば、バチカンにいる法王が世界中の信者を束ねていて、非常に父権的だよね。けれどもプロテスタントは、ある種の擬似家族的な感情の下に繋がろうとする傾向があるじゃないですか。
佐藤 おっしゃるようにカトリックの協会組織は父権的で、だからこそバランスを取るためにマリア崇拝が出てくるんですよね。正教会もそうだけど、カトリックは裁きの要素が強くて、信者にすれば、おいそれとは頼みごとも出来ない。それでマリアが駆り出されてくるわけ。それでカトリックの場合、神学的には女性の地位が圧倒的に高いんですよ。
中村 そうなの?
佐藤 どうしてかというと、十九世紀の終わりに「マリアの無原罪の昇天」というのを確認したんです。
中村 そんなもの、どうやって確認できるの?(笑)
佐藤 第一バチカン公会議で決めたんです。(中略)だからマリア様はすでに天国に行っておられる。今のところ、天国にいるのはイエスとマリアの二人しかいないことになっているんです。
中村 え?ペテロも門番として天国にいるんじゃないの?
佐藤 ペテロがいるのは煉獄の門番をしているんです。最後の審判を受けて初めて天国に入るわけで、今は皆と一緒に煉獄で控えている。(中略)
佐藤 プロテスタント教会の場合はマリア論ってないですから。
中村 ああ確かにない。マリアについてはほとんど習ってないもんね。単にイエスを産んだ母親というだけの位置付けで、マリアを神格化するような話はプロテスタントにはないわけだ。
佐藤 最初はあったんだけども、カトリックがマリアを神格化していくと、プロテスタントはグーッと引いた。

P179
(かたわたの編集者に)インクは大丈夫ですか?
――黄色が不足していると言われてますけど。
佐藤 黄色がないとエロ雑誌が困るらしいね。
中村 ああ、肌色が出ないから?
佐藤 乳首の色が出ないんですって。もちろん乳首は黄色じゃないけど、黄色のインクが重要なんだって言ってた。
中村 ヘンなことも知ってるね(笑)。
佐藤 乳首の色がちょっと緑っぽくなったりするだけで、本の売上にすごく影響するって言ってました。
中村 確かにそうだろうな。うん。

【著者紹介】
佐藤 優 (サトウ マサル)  
1960年東京都生まれ。作家・元外務省主任分析官。同志社大学大学院神学研究科修了。著書に『国家の罠』(毎日出版文化賞特別賞受賞)、『自壊する帝国』(新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞)など多数
中村 うさぎ (ナカムラ ウサギ)  
1958年福岡県生まれ。作家・エッセイスト。同志社大学文学部英文学科卒。コピーライター、雑誌専属ライターを経て、小説家デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
【ネット上の紹介】
クロノスとカイロス、キリスト教は元本保証型ファンド、「新世紀エヴァンゲリオン」の最終結論、『1Q84』は男のハーレクイン、日本は近代以前かポスト近代か、宗教に何が出来るのか…。共にキリスト教徒の二人が火花を散らす異色対談。

[目次]第1章 「聖書」を語る(文学部と神学部の異種格闘技;終末遅延問題;クロノスとカイロス;キリスト教は元本保証型ファンド;今度は「使徒言行録」を読みましょう);第2章 「春樹とサリンジャー」を読む(聖書から謎の福音書「Q」へ;第二の月はチワワ!?;「新世紀エヴァンゲリオン」の最終結論;『1Q84』は男のハーレクイン;それでも村上春樹は役に立つ;閉経女は逆襲する:フラニーと「ナム・アミダ・ブツ」;聖なるものと俗なるもの:太ったおばちゃんがキリスト;キリスト教徒でないのは狼男;原罪は「セックス」ではなく「自意識」);第3章‐1 「地震と原発」を読む―チェルノブイリ、そして福島(あの日、揺れて感じたこと;チェルノブイリの既視感;日本は近代以前かポスト近代か;若い世代にもデジャヴュが;全体主義のさじ加減;天皇のビデオメッセージ;宗教に何が出来るのか;神様とはズレである;否定して最後に残るサムシング;ロシアでC・ディオールは流行らない;ライプニッツのモナドで繋がる;地震は天罰か天譴なのか);第3章‐2 「地震と原発」を読む―日本人を繋ぐものは?(日本人を繋ぐ「宗教的なるもの」;グレートマザーが日本を救う;聖母マリアの無原罪昇天;大東亜共栄圏はモナドロジー;国家総動員法は誤解されている;人間の内側と外側を繋ぐおmの;スピリチュアルと伝統宗教;「私の喪失」と「私の意見」;「ニガヨモギ」と「メメント・モリ」)

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