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「歴史をかえた誤訳」鳥飼玖美子

2021年03月27日 08時05分52秒 | 読書(英語)


「歴史をかえた誤訳」鳥飼玖美子

親しくない場合、お互い歩み寄ろうとする。
距離が近くなるほど、「こんなこと分かってくれるよね」、と思ってしまう。
日本人同士でも言葉の誤解がある。
他国の人となるとなおさら、だ。
外交上の「言葉」のやりとりとなると、政治問題に発展し、歴史が変わってしまう。

鈴木貫太郎は、ポツダム宣言に対して「黙殺」すると言明した。P26
P27
はたして何という英語に訳されたのか――ignore なのか、reject なのか。また、訳したのは、連合国側であったのか? それとも、日本側で英訳してから打電したのか?
もし、日本側が自らreject という訳語をあててしまったなら、これは「拒否」以外のなにもんでもなく、誤訳というレベルを越えた、外交上の大きな誤りとしかいいようがない。
しかし、これがもし、連合国側が翻訳したものであり、「黙殺」のニュアンスがよくつかめずにignoreと訳したのだとしたら、これはむしろコミュニケーション・ギャップの一種であり、誤訳というよりは翻訳についてまわる宿命的な危険性の一例と考えられる。
(中略)
広島に原子爆弾が投下されたのはそれから10日もたたぬ8月6日のことであった。

P28
中村(隆英)氏が筆者に語ったところでは、どうやら当時の同盟通信が ignore と英訳したのを連合国側がreject と解釈した、というのが真相らしい。

P30
「今ならノーコメントと言うところで、そう言っておけば連合国側の受け取り方も違っていたかもしれない。しかし当時の日本国内ではそういう英語表現を誰も知らなかった」

P34
それにしても「黙殺」という言葉でポツダム宣言を拒否したと受け取られたのは、広島・長崎への原爆投下へ踏み切る口実、といういい方が悪ければ、きっかけを与えたことにはなる。(4/7追記:別な資料を調べたら、『投下命令は7月24日、ポツダム宣言が出る前にすでに出されていた』、とあるby「半藤一利の昭和史」P76)

【ネット上の紹介】
原爆投下は、たった一語の誤訳が原因だった―。突き付けられたポツダム宣言に対し、熟慮の末に鈴木貫太郎首相が会見で発した「黙殺」という言葉。この日本語は、はたして何と英訳されたのか。ignore(無視する)、それともreject(拒否する)だったのか?佐藤・ニクソン会談での「善処します」や、中曽根「不沈空母」発言など。世界の歴史をかえてしまった誤訳の真相に迫る。
序章 誤訳はなぜ起きるのか
第1章 歴史を変えた言葉
第2章 外交交渉の舞台裏
第3章 ねじ曲げられた事実
第4章 まさかの誤訳、瀬戸際の翻訳
第5章 文化はどこまで訳せるか
第6章 通訳者の使命

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