「田辺聖子の今昔物語」
29話収録されている。
一番気に入ったのは「海からの土産物」。
ある受領は、北の方と仲良く暮らしていた。
ところがこの受領の殿に、ふとしたことから愛人ができた。
殿はすっかり若い愛人に夢中になってしまう。
ある日、殿は摂津国に遊山に出かける。
そこで珍しいものを見つける。
小さな蛤に、ふさふさと青い海松(みる)が生えているというもの。
小舎人童(ことねりわらわ)に命じる。
「これを京のあれにな、たしかに届けてくれ。『面白いものをお目にかけたくて』と申しあげるんだよ」
殿の「あれ」とは愛人のつもり。
ところが、小舎人童は北の方に届けてしまう。
さて、どうなるか?
大人を対象にした話が多く収録されている。
さすが田辺聖子さん、分かってらっしゃる。
【ネット上の紹介】
今は昔。いつのころか、一昨年のことだったか―。何だか怪しいなとは思ったが、不思議でならなんだが―。こんな話があった。ほんとの話だ。見果てぬ夢の恋、雨宿りのはかない契り、愛矯のある欲ボケ、猿の才覚話―。貧しい若者、ならびなき風流男、帝、生霊、動物、遊芸人、美女となんでも主人公になる。徹底して滑稽で、哀切で、怪くて、ロマンティックな29話。