「私の源氏物語ノート」荻原規子
「源氏物語」を全訳した著者によるエッセイ。
P70
『源氏物語』五十四帖には、さまざまな身の上の女性が出てきますが、一番の幸せを得たのは末摘花かもしれません。
成り上がった幸運をいうなら、明石の君が一番で、自分の娘が中宮になり、高貴な孫たちに囲まれて晩年を送ります。けれども代償に多くの苦悩や忍耐を重ねてきました。
花散里も運のよい女性で、あまり器量がよくなくても、六条院の夏の町に住んで第二夫人になりました。それは、この人がまれにみる気立てのよさで、多くを望まず大らかに構えていたため、源氏の親愛を得たのです。
マイナス面しか持たないのに幸せになったのは、末摘花一人でしょう。
P221
源氏はどこまでも愛執の人であり、口ではくり返し出家願望を語りますが、いつまでたっても真の発心に至りません。
紫の上がこの世を去って初めて、心の底から思い知るのでしょう。
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ところで、日本の職場は、役職で呼びかける。
「課長」とか「部長」、と。
本作品でも、昇級するたびに呼び名も変わり、覚えなおさないといけない。
登場人物が多いのに、さらに呼び方が変わるとついていけない。
そこが「源氏物語」のハードルのひとつ、と思う。
【参考リンク】
「源氏物語 紫の結び」荻原規子
「源氏物語 宇治の結び」荻原規子
「源氏物語 つる花の結び」荻原規子
【蛇足の感想】
少女を誘拐し、義母と密通、同僚の妻を寝取る・・・、
モラルハザード、不倫全開の物語が展開する。
「わたしはこういうことが許される立場のものだよ」、とパワハラも加味。
これを学校教育で教える日本はすごい。
【ネット上の紹介】
原文から全訳を成した荻原規子の源氏物語鑑賞エッセイ。同じ長編物語作家だからわかること、紫式部への深度あるその視点。
いつのまにか役割交代―頭中将の次男紅梅と、長男柏木
みんなの光源氏―紫式部の文通仲間
原因はいつも藤壺―源氏が求め続けたもの
巨大な「若菜」―大団円の暗転へ
なくもがなの求婚―『枕草子』参照の謎
似姿の連鎖―藤壺の宮から浮舟まで
「中の品」の範囲―落ちぶれた高貴な女性
好対照な二人―源氏の孫匂宮と、源氏の末子薫
女三の宮という人―紫の上の努力と限界
意地悪な「玉鬘十帖」―若い娘の悩みごと
浮舟の母親―高貴な連れ子をもった意地
紫の上の死―葬送の空の月
優雅な四季の邸宅1―中宮の秋の町
優雅な四季の邸宅2―春を好む紫の上
優雅な四季の邸宅3―花散里と初夏
優雅な四季の邸宅4―明石の君の冬
若い女の出家―宇治十帖のくり返し
父の帝の愛情―源氏の罪のゆくえ
源氏の出家願望―紫の上との対比
若い源氏の美と笑い―「青海波」の妙
若い源氏の甘え―夕顔と朧月夜
乳母子の奮闘―匂宮の時方、浮舟の右近
真相を得た夕霧―柏木の遺言と薫
鈴虫の宴―女三の宮と冷泉院