「ミステリーの系譜」松本清張
松本清張氏によるノンフィクション。
実際あった犯罪を解説している。
次の3編。
①「闇に駆ける猟銃」・・・「津山三十人殺し」昭和13年
②「肉鍋を食う女」・・・「群馬連れ子殺人・人肉食事件」昭和20年
③「二人の真犯人」・・・「鈴ヶ森おはる殺し事件」大正4年
①は、いわゆる「津山事件」で、横溝正史「八つ墓村」のモチーフになったと言われる。
岡山県僻村、閉鎖社会、旧い因習の残る横溝正史作品そのままの舞台背景。2時間足らずで28人殺し、のち2名死亡で、30人殺しとなった。
②は、旦那の連れ子を継母が煮て喰った、とんでもない事件。継子殺しはよくあるが、喰ってしまうのは珍しい。
③は冤罪を扱っている。警察が「証拠」を捏造して犯人をでっちあげた背景を、リアルに解説。さすが松本清張氏で、読んでいて納得させられた。警察あるある、なんでしょうね。
P27
山村の夜這いという性的風習については、現在の若い人にはすでに意味が通じなくなっている。これは交通の不便と娯楽機関のない閉鎖的な環境の中で昔から行われてきた混交慣習であった。(悪く言えば性的にルーズ、良く言えばおおらかだった、と。獅子文六氏の小説でも、客人に対して、自分の奥さんを提供して「もてなす」シーンが出てくる)
P29
睦雄が1時間のうちに単独で30人もの人間を殺したことから、いつも問題になるのは彼の精神状態である。だが、遺伝的にはその証明はない。
P67
人はだれでも他人からの日常的な被害感を持っている。悪口、軽蔑、中傷、妨害――それは「加害者」が気づかぬくらいに作為のない、些細なことであっても、受けた側の精神的な傷は存外に深いものである。被害感の感受性に鋭敏な者ほどそうである。それはほとんど妄想に近いくらい、いつまでも忘れない。
P103
一度関係をし、また関係を求めた女性は己の独占物のように考えている。自分は幾多の女性に歪んだ関係を持ちながら、その女性が自分より去ると激しい憎悪を以てこれに報いている。他人の権利や人格を全く認めないで自己の所有物のように考えて、何事もほしいままに結論しては勝手に行為している。
P172
小原直といえば、司法検察に塩野閥対する小原閥という2大潮流をつくった一方の元締めである。すなわち、塩野の思想検察系に対し、小原は刑事警察を主体とする系統であった。この二大閥の暗闘は今でも司法史の語り草になっている。
【参考リンク】
「夜見の国から 残虐村綺譚」池辺かつみ
私の知る限り、「津山事件」を元にしたマンガは、
池辺かつみさんの「夜見の国から」と、
山岸凉子さんの「負の暗示」だ。(「天人唐草」に収録)
【ネット上の紹介】
一夜のうちに大量殺人を犯す「闇に駆ける猟銃」、継子の娘を殺し連れ子と「肉鍋を食う女」など、人間の異常に挑む、恐怖の物語集。