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「なでしこ御用帖」宇江佐真理

2020年03月05日 18時51分06秒 | 読書(歴史/時代)
「なでしこ御用帖」宇江佐真理

宇江佐真理作品を今まで少なからず読んできたが、常にレベルが一定以上で、乱高下しない。久しぶりに読んで、改めてそう感じた。

P134
「(前略)人がこの世に生まれてくる時は苦しい思いをしているんですって。その証拠に笑いながら生まれてくる赤ん坊はいないでしょう?それと同じで死ぬ時も苦しい思いをするのよ。病を抱えているのなら、なおさら苦しいと思う。でもね、亡くなった患者さんを見ると、そりゃあ穏やかな顔をしているの。死ぬって楽になることなのだなあって、しみじみ思うの。それは寿命を全うしたせいもあるのよ。自害した人は苦しそうな表情のままなの。(後略)」

P211
 八丁堀代官屋敷通りの麦倉医院の勝手口に、最近痩せた虎猫が現れるようになった。
冬は動物達にとっても辛い季節である。(中略)
 お紺の母親のお蘭が仕舞湯を浴びて家に戻った時、その虎猫は勝手口から洩れる明かりを見つめて、じっと座っていたという。
 かつてはどこかの家で飼われていたのだろう。明かりが点けば、油障子がそっと開いて、優しい主人が温かい家の中へ促し、餌を与えてくれたことを思い出しているかのようだった。(情感あふれる導入部だ。この文章感が心地よい)

【ネット上の紹介】
八丁堀の町医者の娘お紺は、娘盛りの十七歳。その楚々とした風情から、なでしこちゃん、と呼ばれているが、実は大酒飲みの捕物好き。それもそのはず、祖父は“斬られ権佐”のふたつ名を持つ捕物名人。ある日、次兄の流吉が、殺しの下手人として、しょっ引かれたからだまっちゃいられない。岡っ引きの金蔵小父さんを引き連れて、現場にのりこみ真相を探る。人情と恋と家族愛の心温まる時代小説。
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