ジュースを飲み干すと
あの娘は笑った
目深にかぶった麦わら帽子の上を
透明な風が走ってた
いつのことだったか
ずいぶんと昔の出逢い
それでも
心の片隅で
いつも静かに
正座して…
波が寄せてくると
あの娘は笑った
小さくなった波頭を
一つ二つ飛び越えて
夏の終わりの午後
忘れてしまったひとコマ
それでも
あの日の夕焼けは
僕の肩に
降りかかる…
何を求めて
いたのだろう
いつも遠く
見つめて
僕には見えない明日を
彷徨っていたのかもしれない
きっとまたいつか
逢える
きっとまたいつか
逢える
受話器の向こうであの子の声が
微かに震えて遠くなる…
♪…
もう
40年以上も前に作った
オリジナルの歌
なのにまだ
歌詞もメロディも覚えてるなんて…
幾つになっても
センチメンタルな
愚かなジジイらしい…
遠いあの日…
結婚式を
目の前の1ヶ月後に控えてるのに
かかってきたラブコール
どこで調べたのか
わかるはずもない
遠く離れた僕の住むコーポという名ばかりの
アパートの共同電話のコールオン
思ってもみなくて…
アパートの住人の誰かに
○○さん電話ですよ〜と呼ばれて
急いで駆け込み
受話器を耳に当てると…
逢いたい…
なぜだか
涙が出るほどの懐かしい声
耳にすることに…
22歳になった秋
4年ぶりに
そんな声を聞くことになるなんて…
彼女にとって
それほどまでに
僕は大切な存在だったのか?
そんなことすらつゆ知らず
遊び呆けていた時間
虚しすぎた学生時代
だから?
彼女の声を聞いて
僕の想いも揺れ…
すぐに帰っていた
遠く離れた郷里
彼女に逢うため…
約束の喫茶店で
うつむいた彼女が待っていた
いまでもハッキリ覚えてる
それから
波乱万丈の2週間
語ることが出来ないほど
嵐が通り過ぎたような…
そんな2週間…
親兄弟家族をはじめ
たくさんの人たちに
迷惑をかけながら…
結局
僕たちの駆け落ちの計画は
あえなく失敗に終わったと…
稚拙すぎた
何の力もなかった…
そして2週間後
彼女は予定どおり結婚式を挙げ
遠くの地へ嫁いで行った
僕の知らない
誰かの元へ…
絶望に打ちひしがれた僕は
どん底から這い上がろうと
薬を飲み続ける日々に…
あれからやがて
40年以上の月日が経ち…
紅顔の美少年だった僕は
すっかりジジイになっちまった
透き通るような美少女の彼女も
とっくにババアになってるだろうか?
もう一度逢いたくもあり
逢うのは怖すぎる想い…
右往左往してた40年以上も前の僕は
みっともなかったかもしれないけど…
昔を忘れられない今のジジイの方が
よっぽどみっともないのかもしれない
そんな日々…
勘違いの…
若い頃は
みんな弾けてるさ…
だから
逢わないことにするさ…