傑作「おおかみこどもの雨と雪」以降の2作品はどう贔屓目に見ても駄作としか言いようがなく、早くも細田守の才能は打ち止めとなったのかと残念に思っていた。元々稀有な映像作家ではあるけれど、決してストリーテラーでは無い。前出した「おおかみこども」然り、出世作「時をかける少女」「サマーウォーズ」の三作は全て名脚本家奥寺佐渡子の手によるものだ。手垢のついた題材だった時かけを、あそこまで瑞々しく当時の高校生の気持ちに寄り添わせたのは細田守の功績では無いし、当主おばあちゃんのもとに集う大家族を魅力的に描き分けた力量も、ましてやシングルマザーとして二人の子供を育てる母親の成長物語なぞ奥寺佐渡子脚本あったからこその成功だった。
今回も単独脚本だと聞いていたので期待してはいなかった。
のだけれど。今までの良いところを上手く組み合わせた完成度高い映画になっていた。「それ前と同じじゃん」と思わせながらも、気持ち良くさせることが出来ればそれが作家性と言われるものだと思うから、この作品は紛れもなく細田守という作家の秀作だ。
仮想世界もそこで生きるアバターも「サマーウォーズ」の頃に比べ現実世界との境界線が見えなくなり、明日の現実を見ているように感じたのも勝因だろう。わたくしが一番ときめいたのは、現実世界では歌うことができなくなった田舎の雀斑女子高生鈴が仮想世界に歌姫ベルとしてデビューする事で、自分自身はもとより心苦しんでいる人々までも勇気づけることが出来たあの瞬間だ。
辛口な批評をするなら、あまりにも美女と野獣、オペラ座の怪人だったりには些か鼻白んだし、家庭内暴力やネグレクトがそんなに単純じゃ無いことくらい想像つくので、深掘りの甘さを感じた。まあ、それでも自分に自信を持つことのできなかった少女の成長物語としては大きな拍手を送りたい。
主役(鈴/ベル)の声をあてた中村佳穂はどんな人なんだろう。彼女の歌声が魅力的じゃなければこんなにもこの映画は輝けなかった。土佐(仁淀川?)の風景も味わい深く素敵だった。