秋が深まってくると読みたくなる第100回芥川賞受賞作家の南木佳士の作品です。
この作家の本を読むのは7冊目になりますが、一番面白いと思いました。
芥川賞の他にもいろいろな賞を受賞していますが、無冠のこの作品が代表作になるくらい良い出来でした。
南木佳士の武器をすべてつぎ込んで、適材適所に配置されており、深刻さと明るさがバランス良く取れていてとても読みやすい作品でした。
映画化もされており、ロケ地巡りの動画が何本かYouTubeに載ってましたので人気もあるようです。
題名の阿弥陀堂だよりですが、役場の広報に載っている短いコラムの題名で、限界集落の山の守りである阿弥陀堂を守っている老婆から、役場の職員の女性が聞き取り、それをコラムにしているのです。
登場人物が、何かしら世間から外れている人たちで、田舎に住んでいるところが感情移入しやすい要因でしょう。
主人公は、売れない作家で医者の妻の収入で暮らしている主夫です。その妻もガン病院の第一線で活躍していたのですが精神を病んで都会では暮らせなくなり田舎に引っ越すことになりました。
阿弥陀堂の老婆は92歳で、その集落から外へ出たことがなく、村人の扶助で暮らしを立てています。阿弥陀堂だよりを描いている役場の職員は、若い新人の女性ですが、大病を患った過去があり声を出すことができず筆談をするのです。
そんなキャラクターが織りなす物語でありますので、静かな中に暖かさがあり晩秋に味わうにはもってこいの一篇です。