原題:『Acide』
監督:ジュスト・フィリッポ
脚本:ジュスト・フィリッポ/ヤシネ・バッダイ
撮影:ピエール・ドゥジョン
出演:ギヨーム・カネ/レティシア・ドッシュ/ペイシェンス・ミュンヘンバッハ/マリー・ユンク/スリアン・ブラヒム/マルタン・ベルセ
2023年/フランス
エンタメにならない「真実」について
メインテーマはフランスに降り始めた高濃度の酸性雨と、そこから逃れようと試みる人々の物語なのだが、労働紛争に関わって逮捕され、仮釈放された主人公のミシェルには恋人のカリンがおり、ミシェルの元妻のエリーズはミシェルよりも別の地域に住む兄のブリスを頼っており、両親の険悪な関係に挟まれた娘のセルマが翻弄されてしまうというストーリー展開である。
確かに例え酸性雨で命が危機にさらされようと、それで今抱えている自分たちの問題が棚上げされるわけではないのだから、「真実」に忠実ではあるのだろうが、それがスペクタクルとして面白いかどうかとなるとまた別の問題で、例えば、助けてもらって屋敷に入れてもらった女性には腎臓病の透析を受けている息子がいるのだが、酸性雨で屋敷が崩壊しそうになるとその女性の車を奪って二人を残して三人は逃げてしまうのである。彼らに共感はできないが、自分がその立場に置かれるとすれば同じ行動を取らないと断言はできない。まるでノンフィクションを観ているような気分にはなった。