時のつれづれ(北多摩の爺さん)

下り坂を歩き始めたら
上り坂では見えなかったものが見えてきた。
焦らず、慌てず、少し我儘に人生は後半戦が面白い。

鎮魂の8月6日 蝉時雨

2024年08月06日 | 歴史のこみち

多摩爺の「歴史の小径(その11)」
鎮魂の8月6日 蝉時雨 - あの夏から40年経っていた。 -(広島県広島市)

暗い暗い地の底深く、その時がやって来るまで・・・ 待ち続けた約7年
温もりと明かりと、手足と羽根を自由に動かせることと引き換えに、
この世に生存することが約束された、約168時間(7日間)のカウントダウンが始まった。

短い命を知ってか知らずか、この日この時のために、大役を任された蝉たちが、
夜明けとともに日が暮れるまで、
喉を潰しかねない大音量で・・・ 魂の叫びを奏でている。

昭和20年8月6日午前8時15分
あの日の朝も・・・ きっと、蝉時雨が聞こえていたはずだ。

元安川に架かった相生橋の上空に閃光が走り、青空が切り裂かれ、
もくもくと湧いてきたキノコ雲が、黒い雨を降らすまでは、
きっと、きっと・・・ 蝉時雨が聞こえていたはずだ。

人類史上初めての、多くの人々が生活する都市に落とされた核兵器は、
阿鼻叫喚とともに、一瞬のうちに10万人超の人々の命を奪い、
辛うじて生き残った人々に、その後の人生において塗炭の苦しみを与えることになった。

戦争ほど悲惨なものはない。
戦争ほど残酷なものはない。

8月6日、広島の夏
けっして、そんなことはないのだろうが、
大音量で甲高い蝉時雨が、10万人の悲鳴と重なって妙に切ない。

昭和59年8月6日、いつもと変わらない蝉時雨で目覚めた朝、
たった1年、たった1年しか、住んでなかった広島だけど、
いつもは南区役所前からバスに乗って通勤していたが、あの日は少しだけ早く家を出て、
御幸橋まで歩いて広電(チンチン電車)に乗り・・・ 本通で降りて原爆ドームに向かった。

まだ7時前だったと思うが、多くの人々が平和公園に向かって歩いていた。
時間の関係上、残念ながら平和公園までは行かなかったが、
原爆ドームの前に立ち、静かに目を閉じ、心穏やかに手を合わせ、祈りを捧げてから仕事に向かった。

我が家の両親の親族に、被爆者は居ないが、
この日、この時間を共有し、被爆者を弔い、不戦を誓うのは、
広島市民の務めだと思ったから、
なにも躊躇うことなく・・・ 数日前から平和公園に行こうと決めていた。

早いもので、あの夏から・・・ 40年が経った。
いまでも、そしてこれからも、
脳裏に深く刻まれた、あの日の蝉時雨を忘れることはないだろう。

まさか、まさか・・・ 翌年に本社勤務を命ぜられ、東京に向かうとは思いもしなかったが、
サラリーマン人生や、子育てなど、その後を大きく左右した胎動期が、ここ広島にあったと思う。
広島で過ごした濃密な1年は、40年の時を経てなお、
私の記憶の引き出しのなかに、生涯忘れることのないスクリーンショットとして整理されている。

いささか恥ずかしいが、一句詠んでみた。
「 鎮魂の 8月6日 蝉時雨 」
世界が平和でありますようにと・・・ ただひたすらに願ってやまない。


追伸
あまりにも暑すぎる今年・・・ 温暖化から沸騰化になったとはいうものの、
おそらくいまも変わらないと思うが、当時の広島の蝉時雨は、
梅雨の末期に、にい~、にい~、にい~と鳴く「にいにい蝉」から始まっていた。

その後、梅雨が明けると・・・ 東京で耳にする、
み~ん、み~ん、み~んと鳴く「みんみん蝉」の蝉時雨ではなく、
しゃ~、しゃ~、しゃ~と鳴く「くま蝉」と、
じぃ~、じぃ~、じぃ~と鳴く「あぶら蝉」の二重奏が広島の蝉時雨だった。


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2 コメント

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Unknown (多摩爺)
2024-08-06 14:09:47
なおともさん、こんにちは

仰るとおりです。
過去に戻ることは出来ませんが、先のことはしっかり議論して欲しいと願うものの、
この国の周辺には、話しても分からない核保有国が現実的に存在しており、
答えは一つしかないのに、正論が通用しないんだから、ホントに腹が立っています。
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Unknown (なおとも)
2024-08-06 13:10:39
こんにちは!

今日と8月9日は絶対忘れてはいけない忌日ですね。広島の原爆ドームへ原爆記念日に訪れた時、アメリカから訪れた人々に丁寧に道案内をしている広島の方を見て、本当に感動しました。過去は過去、戦争は憎んでも平和は共に願う姿は尊いです。二度とこんな悲しい事が起きない事を願い、祈ります。 なおとも
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