★ ゆく春を近江の人と惜しみける 芭蕉
★ ゆく春や鳥啼き魚の目は泪 芭蕉
★ ゆく春や重たき琵琶の抱き心 蕪村
(吉野山4月12日)
ことしのさくらは予想より遅く咲いて天候のせいか長持ちしてくれていました。
でももう葉桜となり春が過ぎ行こうとしてます。
「ゆく春」というのは花・桜が散るという語と密接にくっついている気がします。
そして春が過ぎゆくのは、何か心の揺らぎを感じます。
「ゆく春」についてつれづれなるままにしたためてみます・・・。
その名も「ゆく春」で歌曲があります。小野芳照作詞/中田喜直 作曲です。
歌詞は次の通り
行く春や春の名残の惜しまれて 桜、花よ花よ
散る散る散る散る散る散る 風に~
なよなよなびく糸柳 影のほそさよ陽もとろろ
入相の山里近し鐘の響きに 驚き飛びたち 飛び去る蝶々
ちょうちょう 蝶々 蝶々 蝶々 ちょうちょう
あぁ 春は春はいくぞえ いくぞえ えぇえ~
いそいそと いそいそと
春は春は行くぞぇ~いくぞうえええぇ~のところは民謡調にこぶしを入れて
情緒たっぷりに春を惜しむ歌です。糸柳のしなやかな風情も色っぽい。
蝶々の旋律は童謡の旋律をそのまま入れていたりして思わず笑えます。
春をたっぷり感じさせてくれる歌です。
加えて風に散る花びらと夕暮れの山里の鐘のイメージですが
能因法師(平安時代の中期の僧侶、歌人)の
★ 山里の春の夕暮きてみれば入相の鐘に花ぞ散りける
の句を思い出される方もおられるでしょう。本歌取りですかね。
能因法師は春、花、鐘を最初に合わせた人かなと思います。
春 花 鐘 の3つとりあわせ
能因法師の後の歌人たちはその派生句をものしているようです。
★ 夕づく日かすみの西にかたぶきて入あひの鐘に春ぞのこれる(土御門院)
★ 暮れかかる入会の鐘の声きけば寺もふる木の花ぞちりける(他阿)
★ のどかなる入相の鐘はひびきくれて音せぬ風に花ぞちりくる(鷹司清雅[玉葉])
★ 初瀬山をのへの花はちりはてて入逢の鐘に春ぞくれぬる(尊円[新拾遺])
古より花を愛し春を惜しむ人の心は変わらないのですね~。
折あれば歌曲の「いく春」をどうぞ聞いてみてください。