無名会11月2010年11月29日発行
ニカンドウ(青花ほおずき)
連句の幾何学的表示 梅田 實
寺田寅彦の随筆「柿の種」をみていたら連句に触れている短章に出合った。
(昭和4年の俳誌渋柿に乗ったものである)曰く
甲が空間に一線を劃する。
乙がそれに続けて少し短い一線を画く。
二つの線は互いにある角度を保っているので、これで一つの面が定まる。
次に、丙がまた乙の線の末端から、一本の長い線を引く。
これは、乙の線とある角度をしているので、乙丙の二線がまた一つの面を定める
しかし、この乙丙の面は、甲乙の面とは同平面ではなくて、ある角度をしている、
すなわち面が旋転したのである。
次に丁がまた丙の線の続きを引く。and so on.
長、短、長、短、合計三六本の線が春夏秋冬神祇釈教恋無常を座標とする
多次元空間に一つの曲折線を描きだす。これが連句の幾何学的表示である。
あらゆる連句の規約や、去り嫌いは、結局この曲線の形を美しくするために
必要なる幾何学的条件であると思われる。と
そこで寺田寅彦全集十一巻に載っている昭和2年11月渋柿所載の歌仙の
表六句を掲げて皆さんの鑑賞のご参考に供します。
なぜ昭和2年かこれはただ小生が生まれた年の作品という因縁によるもの
文鳥や籠しろかねに光る風 寅日子
塀の上より春の遠山 東洋城
炉の名残都の絵師に宿かして 子
網の袋を下ろすかき餅 城
追剥の出るてふ月の原中に 子
葛萩芒これは桔梗 城
法華寺鬼瓦
二十韻「家計簿」 膝送り
家計簿の思い出語る秋深し 梅田 實
愚痴らぬあなたとんだ草の実 玉木 祐
庭の隅犬も弦月眺めいて 藤尾 薫
鎖の先によぎるのは何 古賀 直子
ウ
スイス製懐中時計チクタクと おおた 六魚
名刺に添えて贈る京焼 峯田 政志
忘られぬ幼馴染みは売れっ妓で 實
鬼ごっこした蔵の長持 祐
夏祭り白地の絣取出して 薫
胡さん温さん新茶一服 直
ナオ
首かしげ小雨の中を悠然と 志
山水鳥魚幻術の妖 魚
美女の酌む酒に陶然殿御前 祐
襖が閉まり消える行燈 實
初鶴の声きく畦を照らす月 直
洒落たデザインテーブルクロス 薫
ナウ
説教の司祭は言葉厳かに 志
風の光りて少し眩しく 魚
じょんがらの太三味線に花吹雪 祐
ちょっと気取って斜に春帽子 執筆
平成22年11月6日首尾 於 聖蹟桜が丘 関戸公民館
薬師寺鬼瓦
二十韻「旅の秋」
帰りきてしみじみ偲ぶ旅の秋 峯田政志
さんまの刺身醤油一滴 梅田 實
月代に金星遊ぶ時間にて 玉木 祐
学習塾に先生の声 古賀直子
ウ
駅前の自転車整理警備員 藤尾 薫
バイトの後で逢うとメールが 直子
天井の夢幻の大鏡 おおた六魚
歴女なかまで居酒屋を占め 薫
薀蓄を傾け更ける冬の夜 實
ポインセチアを忘れずに買う 祐
ナオ
自治体が世界遺産をつくり上げ 魚
飯の種には新撰組を! 實
中国もロシアも菅を苦しめる 祐
あなたこのみに漬ける辣韮 直
藍浴衣二人ですごす縁の月 薫
好きな菓子持ち行く舟遊び 實
ナウ
井戸端に雀仲間の集いおり 志
蜆を盛った笊がいくつか 魚
神保町超安売りに花吹雪 志
カレーの香るのどか昼時 薫
平成22年11月6日首尾 関戸公民館
二十韻「ワン・ツー・パンチ」
人生はワン・ツー・パンチ落ち葉踏む 古賀直子
誰より多く採る榎茸 玉木 祐
嬉しげに司会者写真披露して 峯田政志
子等を集めて配る鉛筆 星 明子
ウ 太刀魚の鱗に月の弾けたる 祐
願の糸に託す恋文 直子
逢坂の袖の別れの蔦葛 明子
舞も謡もただ真似をして 政志
鸚鵡には鸚鵡の気持あるらしく 直子
アロハを踊るレイの色どり 祐
ナオ 生ビール存分に呑み盛り上がり 政志
祇園ばやしを送りみる月 明子
鍵善の和菓子とお薄頂きて 祐
甘くて苦いわけありのキス 直子
抱き寄せてタッチパネルで再現し 明子
陰と陽との潮の満ち引き 政志
ナウ 沖はるか浮上始める潜水艦 直子
風船売りの影を猫過ぐ 祐
旧友と思い出話花の下 政志
杖つく道に鐘の霞める 明子
*「鍵善」→京都祇園に本店を置く京菓子の老舗
平成22年11月21日首尾 於関戸公民館創作室
画眉鳥
ニカンドウ(青花ほおずき)
連句の幾何学的表示 梅田 實
寺田寅彦の随筆「柿の種」をみていたら連句に触れている短章に出合った。
(昭和4年の俳誌渋柿に乗ったものである)曰く
甲が空間に一線を劃する。
乙がそれに続けて少し短い一線を画く。
二つの線は互いにある角度を保っているので、これで一つの面が定まる。
次に、丙がまた乙の線の末端から、一本の長い線を引く。
これは、乙の線とある角度をしているので、乙丙の二線がまた一つの面を定める
しかし、この乙丙の面は、甲乙の面とは同平面ではなくて、ある角度をしている、
すなわち面が旋転したのである。
次に丁がまた丙の線の続きを引く。and so on.
長、短、長、短、合計三六本の線が春夏秋冬神祇釈教恋無常を座標とする
多次元空間に一つの曲折線を描きだす。これが連句の幾何学的表示である。
あらゆる連句の規約や、去り嫌いは、結局この曲線の形を美しくするために
必要なる幾何学的条件であると思われる。と
そこで寺田寅彦全集十一巻に載っている昭和2年11月渋柿所載の歌仙の
表六句を掲げて皆さんの鑑賞のご参考に供します。
なぜ昭和2年かこれはただ小生が生まれた年の作品という因縁によるもの
文鳥や籠しろかねに光る風 寅日子
塀の上より春の遠山 東洋城
炉の名残都の絵師に宿かして 子
網の袋を下ろすかき餅 城
追剥の出るてふ月の原中に 子
葛萩芒これは桔梗 城
法華寺鬼瓦
二十韻「家計簿」 膝送り
家計簿の思い出語る秋深し 梅田 實
愚痴らぬあなたとんだ草の実 玉木 祐
庭の隅犬も弦月眺めいて 藤尾 薫
鎖の先によぎるのは何 古賀 直子
ウ
スイス製懐中時計チクタクと おおた 六魚
名刺に添えて贈る京焼 峯田 政志
忘られぬ幼馴染みは売れっ妓で 實
鬼ごっこした蔵の長持 祐
夏祭り白地の絣取出して 薫
胡さん温さん新茶一服 直
ナオ
首かしげ小雨の中を悠然と 志
山水鳥魚幻術の妖 魚
美女の酌む酒に陶然殿御前 祐
襖が閉まり消える行燈 實
初鶴の声きく畦を照らす月 直
洒落たデザインテーブルクロス 薫
ナウ
説教の司祭は言葉厳かに 志
風の光りて少し眩しく 魚
じょんがらの太三味線に花吹雪 祐
ちょっと気取って斜に春帽子 執筆
平成22年11月6日首尾 於 聖蹟桜が丘 関戸公民館
薬師寺鬼瓦
二十韻「旅の秋」
帰りきてしみじみ偲ぶ旅の秋 峯田政志
さんまの刺身醤油一滴 梅田 實
月代に金星遊ぶ時間にて 玉木 祐
学習塾に先生の声 古賀直子
ウ
駅前の自転車整理警備員 藤尾 薫
バイトの後で逢うとメールが 直子
天井の夢幻の大鏡 おおた六魚
歴女なかまで居酒屋を占め 薫
薀蓄を傾け更ける冬の夜 實
ポインセチアを忘れずに買う 祐
ナオ
自治体が世界遺産をつくり上げ 魚
飯の種には新撰組を! 實
中国もロシアも菅を苦しめる 祐
あなたこのみに漬ける辣韮 直
藍浴衣二人ですごす縁の月 薫
好きな菓子持ち行く舟遊び 實
ナウ
井戸端に雀仲間の集いおり 志
蜆を盛った笊がいくつか 魚
神保町超安売りに花吹雪 志
カレーの香るのどか昼時 薫
平成22年11月6日首尾 関戸公民館
二十韻「ワン・ツー・パンチ」
人生はワン・ツー・パンチ落ち葉踏む 古賀直子
誰より多く採る榎茸 玉木 祐
嬉しげに司会者写真披露して 峯田政志
子等を集めて配る鉛筆 星 明子
ウ 太刀魚の鱗に月の弾けたる 祐
願の糸に託す恋文 直子
逢坂の袖の別れの蔦葛 明子
舞も謡もただ真似をして 政志
鸚鵡には鸚鵡の気持あるらしく 直子
アロハを踊るレイの色どり 祐
ナオ 生ビール存分に呑み盛り上がり 政志
祇園ばやしを送りみる月 明子
鍵善の和菓子とお薄頂きて 祐
甘くて苦いわけありのキス 直子
抱き寄せてタッチパネルで再現し 明子
陰と陽との潮の満ち引き 政志
ナウ 沖はるか浮上始める潜水艦 直子
風船売りの影を猫過ぐ 祐
旧友と思い出話花の下 政志
杖つく道に鐘の霞める 明子
*「鍵善」→京都祇園に本店を置く京菓子の老舗
平成22年11月21日首尾 於関戸公民館創作室
画眉鳥