フィルムセンターで開催中の日本映画史横断6 東映時代劇の世界Part2
『江戸っ子繁昌記』(61)
中村錦之助が酒好きで気のいい魚屋勝五郎と旗本・青山播磨という対照的な一人二役を演じる人情時代劇。これは、やはり錦之助が二役を演じた『一心太助』シリーズの魚屋太助と将軍徳川家光、『森の石松鬼より恐い』(60)の現代の演出家と森の石松と同様のスタイルだ。
あるいはこれらの発展型として、一人七役の『武士道残酷物語』(63)、一人三役の『冷飯とおさんとちゃん』(65)もある。今さらながら錦之助の芸達者ぶりがしのばれる。
そんな本作の監督は、『森の石松鬼より恐い』のオリジナル『続清水港(清水港代参夢道中)』(40)を撮ったマキノ雅弘だ。また本作は、落語の「芝浜」と長屋物、怪談の「番町皿屋敷」、歌舞伎の「魚屋宗五郎」、旗本と町奴が対立する水野十郎左衛門の話などを下敷きとしながら、これらを合体させ、一つの物語として仕立て上げている。脚本成沢昌茂の力技に舌を巻く。
勝五郎の女房に長谷川裕見子、長屋の隣人に千秋実、桂小金治、金貸し婆に高橋とよ、大家に坂本武と、脇も名優ぞろい。長屋物の魅力満載の一編だ。