『古書街キネマの案内人 おもいで映画の謎、解き明かします』 (大泉貴 ・宝島社文庫)を読了。
大学生の多比良龍司は、映画にまつわる悩みを解決する“キネマの案内人”六浦すばるにひかれ、名画座「神保町オデヲン」でアルバイトを始めるが…。29歳という、自分から見れば十分な“若者”による、名画座を舞台にした4話構成の連作短編集。名画座のモデルは神保町シアターで、ノスタルジックな味わいを出そうと努力した跡がうかがえる。
主人公の龍司のモデルは恐らく作者自身だろう。映画館やフィルムについての描写は実体験がなければ書けないところがある。遥か昔の学生時代の4年間、旧東洋現像所(現イマジカ)でアルバイトに励んだ我が体験とも重なるところがあった。
さて、それぞれの話の“主役”となる映画は、『E.T.』『羅生門』『イングロリアス・バスターズ』『私の鶯』。それぞれの映画に対する人々の思いが、すばるの言葉を借りて明かされるという謎解きの要素もある。
古い映画についてはさまざまな映画本やインターネットから得た知識や情報を基にしているのだろうが、その映画を見ていなくても、あるいは作られた時代や背景を直接知らなくても、こうしたライトノベルが書けてしまうのだから今の若者はすごいと言うべきか。これは小説を書くと言うよりも、ゲームのストーリーを考えるような感覚から生まれてくるものなのかな。もちろん?と思える描写も少なくないが、読みながら、ここにも“映画愛”があると感じてうれしくなった。