映画の中のポール
ブルックリンに暮らす、40代と20代のカップルの交流とギャップをコミカルかつシニカルに描いたノア・バームバック監督の『ヤング・アダルト・ニューヨーク』で、ウングス時代のポール・マッカートニーの曲が印象的に使われていた。
映画の中盤で流れるのは1973年発表のアルバム『バンド・オンザ・ラン』のラストを飾った壮大な名曲「西暦1985年=Nineteen Hundred and Eighty Five」。
この曲は、「1985年になったら、生き残っている人は誰もいないんじゃない?」というちょっと怖い一言で始まるのだが、ポールにそう言ったのは妻のリンダだったという説がある。
今や85年は遥か遠くに過ぎ去り、ジョンも、ジョージも、そしてリンダも亡くなったけれど、ポールは現役で頑張っている。そう考えながら改めてこの曲を聴くと感慨深いものがあったし、中学時代から愛聴していたこの曲を、去年ライブで初めて聴いた時に思わず涙腺を刺激されたことを思い出した。
ちなみに85年のポールは、ジョン・ランディス監督の『スパイ・ライク・アス』のテーマ曲を作っている。
もう一曲、エンドクレジットで流れるのは、76年発表のアルバム『スピード・オブ・サウンド』に収められた愛すべき一曲で、アメリカ建国200周年を記念して書かれた「幸せのノック= Let 'em in」。
この映画は、冒頭にイプセンの『棟梁ソルネス』の一節を引用し、これから描く、新世代を受け入れるか否かで悩む旧世代の葛藤を明示しているが、紆余曲折を経て、「彼らを中に入れてあげてよ」とポールが歌うこの曲を最後に流すことで、主人公の心の変化を表しているわけだ。