田中雄二の「映画の王様」

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『エンドロール』(鏑木蓮)

2016-05-31 20:49:59 | ブックレビュー



 映画監督志望の青年・門川は、夢破れ、アパート管理のアルバイトをして生計を立てていた。ある日、団地に住む独居老人の帯屋が部屋で亡くなっているのを見つけた門川は、遺品整理の際に、古い映画雑誌に加えて、謎の8ミリフィルムと映写機を発見する。映っていたのは重いリヤカーを引きながらも、笑顔を絶やさない行商の女性。並外れた映像力とそこに映った女性に興味を持った門川は、帯屋の人生をたどってみることにする。

 一本の8ミリフィルムに隠された一人の男の思いを、映画監督志望の若者が探ってくというアイデアは、映画好きにとっては興味深いものがある。そして、好きな映画を聞かれて、「~きっとスピルバーグやルーカス、タランティーノらの名前を挙げると思っていただろう。そんなミーハーじゃないというところを示したかった」として、あえてアキ・カウリスマキの『浮き雲』(96)を挙げるひねくれ者の門川が、帯屋の人生を知るうちに変化していくところが読みどころとなる。

 読みながら、戦争体験、孤独死、限界集落、無縁社会…といったつらい問題が浮かんでくるのだが、ラストに「私の人生のエンディングがどんなものであれ、エンドロールには多くのキャストの名前が連なることでしょう。そこに誇りの持てる人生を送ってきたつもりですし、今後もそうするつもりです」という帯屋の手記を持ってきて、彼の死は決して無縁でも孤独でもなかったとするところに作者の主張がある。

 恐らく作者は「(その人が)どんな土地に生まれて、どんな生き方をしたのか。それを覚えていてくれる人がいる限り、人は孤独ではない」と言いたかったのだろう。この小説は東日本大震災発生直後に書かれたという。

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