1982.2.5.有楽座での初見の際のメモを。
前作『1941』(79)は、今後のスピルバーグの映画は大丈夫なのか、と思わされるほど出来が良くなかった。『激突!』(71)『続・激突!カージャック』(74)『ジョーズ』(75)、そして『未知との遭遇』(77)と、これまでの彼の映画は見る者を引き込んでしまうしまう魔力に満ちあふれていた。それなのに、そのスピルバーグが、ただ物をぶっ壊すだけの笑うに笑えないコメディを撮った。これはかなりショックな出来事で、今まで俺たちを楽しませてくれた彼は一体どこへ行ってしまったのかと思わされた。
だから、この映画に関しても、正直なところ、期待半分、不安半分といったところだった。ところが、この映画では『1941』以前のスピルバーグに戻ってくれたばかりでなく、さらに成長した姿を示してくれたのである。スピルバーグが復活した!
ジョージ・ルーカスが製作し、スピルバーグが監督したこの映画は、モーゼの十戒の破片を納め、神秘的な力を宿すといわれる聖櫃を巡って、考古学者インディアナ・ジョーンズがナチスと対決するさまを描いたアドベンチャー作。
ジョン・ウィリアムスの軽快な音楽に乗って、もう出だしからハラハラドキドキの連続。まさに“活動大写真”の醍醐味にあふれ、映画の原点である見る者を楽しくさせるという作用が働いて、気が付けば、時のたつのも忘れて引き込まれた自分がいた。
伏線が張り巡らされた見事なストーリー展開、『激突!』や『ジョーズ』の驚かしをさらにスケールアップした見せ場、ジョーンズ役のハリソン・フォードのスーパーマンぶり、「007」シリーズなどとは一味も二味も違うアクション…。
それだけではない。「ターザン」や、『駅馬車』(39)をはじめとする西部劇など、往年のハリウッド活劇をなぞり、おまけに黒澤明タッチすら見せるのだ。まさに映画狂スピルバーグの面目躍如。こうした温故知新の精神を持っているところが、スピルバーグやルーカスの良さでもある。
と、スピルバーグの復活を喜びながら、その反面、若いうちに、すごい映画をたくさん作ってしまった彼は、ずっとこの水準を保ちながら映画を撮り続けていけるのだろうか…という不安が頭をもたげる。また『1941』のような失敗作を作らないことを願うばかりばかりだ。それだけ期待しているということですよ。スピルバーグ殿。
【今の一言】あれから35年…。この話の続きは、「インディ・ジョーンズ」と名を変えてシリーズ化され、現在までに『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(84)『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(89)『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(08)が作られ、「5」の製作も進行中だとか。
そして、この後、スピルバーグは、『E.T.』(82)『カラー・パープル』(85)『太陽の帝国』(87)『ジュラシック・パーク』『シンドラーのリスト』(93)『プライベート・ライアン』(98)『宇宙戦争』『ミュンヘン』(05)『戦火の馬』(11)『ブリッジ・オブ・スパイ』(15)などを撮り、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(17)が来年公開される。35年前にオレが抱いた不安は、杞憂に過ぎなかったのだ。