『男はつらいよ 知床旅情』(87)(1987.11.13.新橋文化)
最近のこのシリーズは、寅さん=渥美清の老けが目立って、段々と見るのがつらくなってきたのだが、今回はおいちゃん(下條正巳)、おばちゃん(三崎千恵子)、タコ社長(太宰久雄)、御前様(笠智衆)といったレギュラー陣の老けも目立って、ますます見るのがつらくなった。
ところが、それと同時に、このシリーズの新たな魅力も発見した。それは、そこに帰ればいつも変わらぬ景色があり、同じ人々がいる、という現実にはあり得ない“夢”を描き続けているということ。盆暮れの年2回、まるで故郷に帰るような気持ちで見続けている人たちがたくさんいるということだ。
改めて発見した、と書いたが、それは山田洋次がシリーズを継続していく上で一貫したテーマとして描き続けていることであり、こちらも以前から気付いてはいたのだが、ここ数年、自分の周りから大切な人々が去っていった現実が、このテーマをより強く感じさせたのだろう。
年月とともに、自分も周囲も否応なく変化していく。だから、せめてこのシリーズの中だけは、いつまでもみんなが変わらなくいてほしい。今回はそんなふうに感じさせられた。最近のシリーズには、愛着故の不平不満ばかり述べてきたのだが、今回は妙に心に浸みた。
また、マドンナの存在とともに、シリーズを支えているのが、寅さんとゲストとのからみだが、今回は三船敏郎と淡路恵子という、大物を配したこともあり、久しぶりに渥美清が乗っている感じがしたのも良かった。