田中雄二の「映画の王様」

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井上ひさしの芝居2「たいこどんどん」「父と暮せば」「きらめく星座 昭和オデオン堂物語」

2020-10-17 08:46:14 | ブックレビュー

「たいこどんどん」(95)(1996.10.13.)

 演出・木村光一、音楽・宇野誠一郎 幇間・桃八(佐藤B作)、若旦那・清之助(岡野進一郎)、女郎・袖ヶ浦(順みつき)、沖恂一郎

 井上ひさしお得意の、自らの故郷・東北と東京とを巧みに交差させた幕末もので、心情とは裏腹に、どんどん江戸から遠ざからざるを得なくなる太鼓持ちと若旦那コンビの旅が、時にはおかしく、またある時には悲しく綴られる。

 かなりシビアな場面もあり、いささか長過ぎる気もしたが、同じ役者が一人で何役もこなすことによって生じる妙なおかしさや、ラストの「江戸が東京に変わったって人間は何も変わりゃしねえ」という、太鼓持ちの啖呵に救われる。沖恂一郎という中年のいい役者を発見した。


「父と暮せば」(95)(1997.5.3.)

 演出・鵜山仁、音楽・宇野誠一郎 福吉美津江(梅沢昌代)、福吉竹造(すまけい)

 自分がこれまで見てきた井上ひさしの芝居は、そのほとんどが半分ミュージカルコメディのようなものだった。ところが、この芝居では、心に傷を持った娘と、幽霊となった父親との会話の中から、原爆や被爆者に関する問題を明らかにしていく、という特異な手法が取られている。

 これまた秀逸な手法なのだが、今回は正直なところ、見ていてつらくなった。あまりにも扱っている問題がシビアで、時折吐かれる井上お得意の言葉遊びも、心底からは楽しめなかった。

 もちろん、井上が、黒澤明との対談で、「お客が見終わった後に生きる勇気が湧いてくるような芝居作りを心掛けている」と語ったように、この芝居も、ラストはきっちりと救いがあるのだが、そこまでの展開があまりにも厳し過ぎるのだ。

 と、まあ、ストーリー的には苦さが残るものの、すまけいと梅沢昌代の二人芝居は見事だった。


「きらめく星座 昭和オデオン堂物語」(85)(1997.11.18.)

 作・演出・井上ひさし、音楽・宇野誠一郎 小笠原信吉(犬塚弘)、小笠原ふじ(夏木マリ)、小笠原正一(橋本功)、小笠原みさを(斉藤とも子)、源次郎(名古屋章)、権藤三郎(藤木孝)、竹田慶介(すまけい)

 今回は、戦争前夜のレコード店を舞台に、脱走兵の長男がいるリベラルな一家のもとに、憲兵や傷痍軍人が現れて…という設定で、相反する価値観を持つ人物を、ユーモアを交えて対照的に描きながら、やがて戦前の日本が抱えていた矛盾をあぶり出していく。

 また、井上芝居はミュージカル仕立てのものが多いのだが、今回も、当時の流行歌を巧みに盛り込むことで、音楽が持つ力や切なさも描き込んでいる。役者たちも、犬塚弘、橋本功、名古屋章、藤木孝、すまけいら、一癖ある豪華な顔ぶれがそろっていた。

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『がんばれ!ベアーズ』

2020-10-17 07:40:22 | ブラウン管の映画館
『がんばれ!ベアーズ』(76)(1977.8.27.銀座文化)
 
 
 元野球選手のバターメーカー(ウォルター・マッソー)は、ひょんなことから問題児ばかりの少年野球チーム・ベアーズのコーチを任される。このままでは勝てないと考えた彼は、元恋人の娘で快速球を投げるアマンダ(テイタム・オニール)や、不良少年だが優れたバッターのケリー(ジャッキー・アール・ヘイリー)をスカウトし、チームの立て直しを図る。
 
 思わず時間がたつのを忘れてしまうほど楽しめた。チームの少年たちの個々の性格がとてもよく描かれていた。特に、黒人の少年と気の弱い少年のラスト近くの大活躍には思わず拍手。マッソーが子役たちに食われずに、ちゃんと目立っていたところはさすが。ビック・モローの敵方の監督=悪役というキャスティングも面白かった。
 
 それぞれが問題を抱えるチームメートの生活と野球にのめりこんでいく様子を交差させて描く再生物語は、先に見た『ロッキー』(76)もそうだが、「結果よりも努力の過程が大事なのだ」という“敗北の中の栄光”がテーマとなる。監督マイケル・リッチー、脚本ビル・ランカスター(バートの息子)、撮影ジョン・A・アロンゾ。音楽はジェリー・フィールディングが担当し、ビゼーの「カルメン」を効果的に使っている。
 
【今の一言】続編として『がんばれ!ベアーズ 特訓中』(77)『がんばれ!ベアーズ大旋風 -日本遠征-』(78)が作られた。ヘイリーは紆余曲折を経て、くせ者の脇役として現役を続けている。
 
  
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