田中雄二の「映画の王様」

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井上ひさしの芝居4「黙阿弥オペラ」「連鎖街の人々」「天保十二年のシェイクスピア」

2020-10-18 16:01:54 | ブックレビュー

「黙阿弥オペラ」(95)

 河竹新七(辻萬長)、五郎蔵(角野卓造)、おみつ(島田歌穂)、とら(梅沢昌代)、及川考之進(松熊信義)

 時は幕末、傷心の河竹新七と偶然出会い、意気投合した4人の男たちが、捨て子のおせんを育てるために株仲間を始める。やがて明治となり、株仲間は国立銀行に、おせん改めおみつはオペラ歌手に、新七は新作狂言で一世を風靡するが…。

 時代に翻弄される歌舞伎狂言作者・河竹新七(後の黙阿彌)と仲間たちを描きながら、見事な人間賛歌を構築している。ビゼーのオペラ「カルメン」と歌舞伎の「三人吉三」の掛け合わせの場面が抜群に面白い。


「連鎖街の人々」(00)

 辻萬長、木場勝己、中村繁之、藤木孝、松熊信義、石田圭祐、朴勝哲、順みつき

 終戦直後、大連の繁華街「連鎖街」のホテルに閉じ込められた劇作家たちを描く。


「天保十二年のシェイクスピア」(2005.12.28.)

 演出・蜷川幸雄、音楽・宇崎竜童 佐渡の三世次(唐沢寿明)、きじるしの王次(藤原竜也)、お光/おさち(篠原涼子)お里(夏木マリ)、お文(高橋惠子)、尾瀬の幕兵衛(勝村政信)、隊長(木場勝己)、鰤の十兵衛・飯岡の助五郎(吉田鋼太郎)、西岡徳馬
 
 いかにも、井上ひさし作らしく、パロディ(シェークスピアの芝居と「天保水滸伝」などの講談の掛け合わせ)や、語呂合わせ、そしてミュージカルっぽい仕掛けが随所になされているのだが、果たして演出・蜷川幸雄、音楽・宇崎竜童がそれをちゃんと生かせたのかどうかは疑問がのこる。音楽は井上芝居の常連、宇野誠一郎にやってほしかった。

 もっとも当方、シェークスピアの作の芝居を全て知っているわけではないので、あまり偉そうなことは言えないのだが…。語り部役の木場勝己がうまい!


 

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井上ひさしの芝居3「表裏源内蛙合戦」「化粧」「紙屋町さくらホテル」

2020-10-18 11:13:07 | ブックレビュー

「表裏源内蛙合戦」(92)(1997.11.19.)

 演出・熊倉一雄、音楽・服部公一 安原義人、熊倉一雄、納谷悟朗、矢代駿

 江戸の一大奇人・平賀源内の夢と挫折の生涯を、色と欲が渦巻く風俗の中に浮かび上がらせる。

 今回のテアトル・エコーは、声優として有名な人たちが所属する劇団。普段はあまり顔を見ることはないが、この芝居で、彼らの俳優としての本来の姿が見られた。

 加えて、すでにこの初期のものから、井上芝居の特徴である、ミュージカル的な要素や、タイトル通りに文化人たちの裏表を描くことで、よりその人物を際立たせるという手法が確立されていたことをうかがい知ることができた。


「化粧」(82)(1997.11.20.)

 演出・木村光一 

 渡辺美佐子による一人芝居。旅一座の座長をバリバリの新劇の女優が演じる面白さがある。一種の母ものとしての芝居そのものと、劇中劇が二重構造となることによって生じる切なさが見どころ。


「紙屋町さくらホテル」(97)(1997.12.30.)

 演出・渡辺浩子、音楽・宇野誠一郎 神宮淳子(森光子)、長谷川清(大滝秀治)、園井恵子(三田和代)、大島輝彦(井川比佐志)、針生武夫(小野武彦)、熊田正子(梅沢昌代)、丸山定夫(辻萬長)

 新国立劇場のこけら落とし公演。広島の原爆で散った、さくら隊という実在の即席一座に、軍人を紛れ込ませるという、井上芝居お得意の、相反する価値観を持つ者たちのちぐはぐなやり取りが展開する。それを半ばコミカルに見せながら、やがて事の核心へと迫っていく、という手法が、この芝居でも効果的に使われていた。

 そして、そこから戦争の罪、死んでいった者たちの無念、生きのこった者の苦悩、あるいは芝居の素晴らしさ、といったテーマが浮き彫りになる。今回もお見事な作品でありました。


 

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